2011-05-08

ANZA's box at Marz on 1st May (Pt.2)

  

(承前)


「2003年。『レ・ミゼラブル』に出会いました」

「本田美奈子さんが出演されていた公演を観て、初めて《魂で歌うひと》を観た、と思ったんですよね」
「その美奈子さんが演じていたエポニーヌ役がたまたまわたしにまわってきたんだけど、とても苦しかった」

「セラミュ」を400回近くこなしているとはいえ、より本格的なミュージカルへ挑戦することに。
高い演技力と歌唱力を求められる役を演じるための試行錯誤、暗中模索は相当なものだったのだろう。
この試練を乗り越え、ANZAさんは女優としても歌い手としても自信を深めることになったのではないだろうか。

小説しか読んでないので(しかもあまり覚えてない)ミュージカル版は原作と異同があるかもしれないが、
エポニーヌは作中でもっとも純粋で悲劇的な薄幸の人物ながら、一抹の幸福を湛えたその最期が印象的だった。


そのエポニーヌとして歌う"On My Own"は、
愛に殉じたエポニーヌの思いと生き様を歌う、力強くも儚く、そして何よりとても切ない曲だった。

「またわたし行くところもないわ」と、語りと歌の中間をいく歌唱でひとことひとこと、
言葉に力と思いを込めて歌い出すその姿は、まさに「ミュージカル女優」のそれであると同時に、
HPPのライブで何年も観てきた姿と大差ないどころか、ほとんど受ける印象が同じであることに気づかされる。

彼女の「愛するひとを思う強さ」「それゆえの孤独」とANZAさんの歌唱が見事に合わさって、
辛さ、痛み、切なさに否応もなくシンクロさせられてしまう。役どころを知らなくてもそれは伝わっていただろう。

この曲で、「表現者ANZA」が伝えてくる感情の質というものの全体像が、おぼろげながら見えてきた気がした。


マイクをへそのあたりで両手に握りしめたまま、ANZAさんがゆっくりとステージを後にすると、
かわって、これまでパーカッションを叩いてきた坂口さんがマイクをもって前方に出てきた。

昼夜公演ともにさして紹介はなかったのだけど、坂口さんも「レミゼ」出演者なのである。
(2003年当時の出演者リスト、ならびに音源はこちらを参照

曲は"エピローグ"。おそらく、最後に出演者全員で歌う曲なのではないだろうか。
ANZAさんも途中から歌いながらあらわれ、ふたりとも向き合って熱唱する。
長い舞台の最後にふさわしい、勇壮でいてどこか「祭りの終わり」を思わせるような蔭りのある曲だ。

大きな拍手のなか、ふたたび定位置に戻る坂口さん。とてもうれしそうだった。


ANZAさんが次のゲストをステージに招き入れる。ミュージカル「GIFT」で共演した小田マナブさんだ。
公私ともに仲がよく(つい最近も渋谷で会ったのだそうだ)、小田さんもANZAさんを「アンジー」と呼んでいた。

「アンジーにはしょっちゅう相談をしていて…」
「でも、いつも聞き手にまわってアンジーの悩みを聞いてるうちに、自分の悩みなんてちっぽけなもんだな、と思って」「で、結局なにも言わないで帰ってくるんです」なんだか目に浮かんできそうなシーンである。

小田さんは、右側即頭部だけ髪を短く刈っているファンキーな髪型(色は明るめの茶髪)をしていてもなお、
その誠実な人柄が伝わってくるような方で、やわらかい話し方とこどものような明るい笑顔がとても印象的だった。


「このミュージカルには"笑ったら"てゆうとても素敵な曲があって、ずっといい歌詞だな、と思ってて」
「本当につい最近まで知らなかったんだけど、この歌詞を書いたのがじつは・・・マナブだったんだよね」

そうだよなんで知らなかったんだよ、と言いたげな調子で「そぉ~うなんですよ」と小田さん。
「ちょっと、歌詞を書いた背景なり何なり説明してくれる?」とANZAさん。「ハイ、ええと…」と語り出す小田さん。

その小田さん、かつてはミュージシャンを志して上京したものの生活のためバイトに明け暮れ、
結局は夢から遠ざかる日常に苛立ちや焦りを感じて過ごしていたという、そんな時期にこの歌詞を書いたそうだ。

実際、この「GIFT」での役どころも《夢を追うフリーター》の役で、
作品とまさにピッタリだったため、曲を使ってもらうことになったのだそう。

ANZAさんも「GIFT」の役どころが「すとんっ、と入ってきた感じ」がしたほど、違和感なく演じることができたらしい。


その"笑ったら"は、「夢や希望だけじゃ生きられない」「夢にはまだ1ミリも近づけない」と歌いだされ、
「あきらめることはできるわけはないよ」「自分で決めた道なのに」「笑ったらいいさ」とつづいていく。
(うろ覚えなので間違っているかもしれないが、流れは合っているはずである)

やりきれなさと、それをふり払おうとする意志の強さが胸に迫ってくる曲で、しみじみと感動する。



曲が終わり、ANZAさんは小さいノートを手にとって語り出す。
3月の震災のこと、阪神大震災のこと、被災者が「がんばれ」という言葉に励まされ、かつ傷ついたこと。
プロデューサーは「上手に歌うな、真剣に歌え」と声をかけていたらしい。技術ではなく気持ち、いや、倫理か。

「せっかく助かった命を、捨てないでほしいと思います」
「いま、《真剣に》歌いたいと思います。《自殺しちゃ、ダメだよ》」

テーマ曲の"GIFT"もまた、元々は小田さんがやっていたウェイターズの"自殺しちゃだめだよ"が原曲のようだ。

何度も何度も出てくる「がんばれ」という言葉。励ましとも祈りともつかない言葉。ときに無責任な言葉。


《真剣に》歌う、とはどうゆうことだろう。気持ちを込める、それだけだろうか。
込められた気持ちは必ず伝わるのだろうか。気持ちが入ってないのにそれと伝わってしまう場合もありはしないか。
送り手と受け手、どちらか一方だけで完結してはいないだろうか。だとしたら、何のため《真剣に》歌うのか?

思うに、《真剣に》ならねばならないのは自分に対して、なのだろう。自分に嘘はつけない。
誰しも、自分がついた嘘くらいわかる。そのとき気づかなくても、後々になって気づくだろう。
だから、《真剣に》歌わねばならない。嘘を、ごまかしを、見栄を、一掃しなければ歌ってはならない。

これは、ANZAさんがHPPで実践している以前に、アイドル時代からずっと貫いていることではあるまいか。
全力で、魂を込めて、真剣に、歌うこと。持てる感情を表現すること。それで伝わらなかったら、それまでのこと。

しかし、伝わらないことなどかつて一度でもあっただろうか?そう思わざるを得ないほど、圧倒された。


小田さんの頬には涙の跡があった。それも、昼夜公演の二回とも、である。
それが役者だろ、と言われそうだが、受けた印象はそうした職人めいたものではなかった。
ANZAさんが「素晴らしい役者さんであり、表現者」と太鼓判を押すのも頷ける。

はたして、これほど《真剣に》音楽に取り組んでいるバンド/アーティストはどれくらいいるのだろう?
ステージに立つのなら、作品を出すのなら、まずは嘘のない真剣さがあってしかるべきではなかろうか。
楽しければ、満足していれば、それでいいかもしれない。まして、成功していたら尚更だろう。

それでも、わたしは敬意と感謝を(《愛》と言い換えてもいい)捧げるに足る表現者を応援したい。
そうでなければ、申し訳が立たないではないか?こんなにも、与えてもらってばかりだというのに。


岩名さんのときと同様に、小田さんにステージを任せて姿を消すANZAさん。
しばし、震災のことを語った。多くの不幸、あの状況下で深められたひととひとの絆、それを信じること。

ウェイターズ時代の曲だという"テノヒラ"を、あたたかい声でじっくり歌って聴かせてくれた。
とてもこころに響く曲を書くひとだと思った。こうしたナチュラルな曲こそ多くのひとに届いてほしいのだが。


お色直しをしたANZAさんが再登場。曰く、「ブラック・アンザ」なのだとか。
襟が大きめの開襟シャツに紺のベストを着て、ストライプ(紺と白)のネクタイをゆるくしめた姿。
(昼公演の後に「AKBみたい」と言われたらしく、夜公演で「ちがーう!」と言い返していた)

小田さんと「今後の予定」についてトークしている間に、坂口さん、水谷さん、Tomoさんがステージを去り、
入れ替わりでNarumiさん(b)とBatchさん(per)がセッティング。

一方、ANZAさんは「HEAD PHONES PRESIDENTをメインに」活動することを告げる。
6月15日にDVD発売で、現在作業中とのこと。また、その後も「いろいろ企画している」とも。
(ANZAさん、テーブルに置いていたフライヤーで小田さんの舞台の告知もしていた。演目はこちら


ここからは、HEAD PHONES PRESIDENTのアコースティック・セットとなった。

"Chain"のアコースティック・ヴァージョンは、去年の10月23日以来2回目となる。4人編成ではこれが初めてだ。
(ただし、海外ではやっている。去年のブラジルと、今年2月のフランスである)
これまでは楽曲の「主役」だったANZAさんも、HPPでは全体の一部(ただし、欠くことのできない)となる。



"Life Is Not Fair"では、Narumiさんのベースがより前面にせり出してくる感触がある。
そのためもあって、曲の底流にあるとおぼしき情念がゆらゆらと立ち昇り、うねってくる印象が強い。

ミュージカルの楽曲を歌っているときとほとんど同じでありながら、何かが違う。
それがバンドという磁場、人間関係なのだろう。音楽とは、なぜか「そうゆうもの」なのだ。


Narumiさん、Batchさんがステージを後にし(昼公演ではなぜかHiroさんも一度去ったのだった)、
ふたたびメンバーが定位置についたところで「むかしやっていたカバーを」やる、と言う。

むかし、とはどうやらセラミュを卒業してソロになってからやったツアーのことのようだ。
となると、1998年~1999年である。Tomoさんはそのときからのつき合いになるのだろう。


当時、ドラマーだった仁科さんが英詞を日本語に翻訳(むしろ翻案)したという、
ベット・ミドラーの超名曲"The Rose"のカバー、タイトルは"Dear あなたへ"
(『おもひでぽろぽろ』の曲、と言えばあのメロディが思い浮かぶだろうか?)



わたしはこの曲にすこぶる弱いので、ピアノが一音一音鳴らされるイントロだけで泣きそうになった。
歌詞は、愛する者を失った悲しみを抽象化したオリジナルと違い、かなり具体的な描写となっていた。
死んでしまった恋人の顔を、茫然自失のまま見つめる姿が目に浮かぶかのようだった。
(ところどころ、水谷さんがコーラスをとってきれいなハーモニーをつくっていた)

後半、天に届けとばかりに声を張り上げる姿勢に、ANZAさんの変わらぬ「歌」を聴いた。
メロディをきれいになぞるのではなく、むしろところどころあえて濁らせ、力み、荒げて歌う。
それはHPPだけでなく、ミュージカルでも、カバーでもそうだった。(ビタQも同様だ)


技術を研鑽し、自分のやり方で、真剣に、世界と対峙する。愛と祈りを込めて。

これが「表現する」ということなのだ。
そして、それを悟らせてくれるひとは、じつに少ないのである。


これに未発表曲の"一人じゃない"が、MCなしでつづいた。
夜公演ではMCを挟んで、やはり未発表曲の"For Ever"だった。

いずれも曲自体はシンプルかつストレートな曲だけど、"Dream"ではなく明らかに"彼方へ"よりの曲。
ただし、"彼方へ"や"翼"ほど「痛み」は強くなく、もっと淡い哀感が漂う、といった風情。


「次の曲で最後になります。今日は本当にありがとうございました!」

曲名が告げられた未発表曲の"My Will"は、他のソロ曲と決定的に違い、
躍動感と楽しさと笑顔に満ちた、とても幸せな空間を会場に現出させてみせた。

中間部では、ANZAさんがひとりずつその名を呼んでのソロ・パートも。



水谷さんの流麗なヴァイオリン、吉田さんの柔らかいベース、
終始笑顔を絶やさなかった坂口さんのパーカッション、いつも通り弾きまくりのHiroさん、

「そして、今回の音楽監督をしてくれたTomo!」

「そしてわたくし、ANZAでした。本日はどうもありがとうございました!」


このままずっと、このときがつづけばいいのに、と叶わぬことを思ってしまう瞬間がある。
まさにそんな瞬間だった。終わってほしくなかった。もっと観ていたかった。


この公演を観て一週間経った(もう?まだ?)いま、こうしてブログを書きながら、
「もうあのライブを観ることはないのか…」と寂しさを感じている。


鳴りやまない拍手に、「ごめん、アンコールないの!」とわざわざ幕の横から顔を出した昼公演、
幕が閉まるまで手を振りつづけて、「なかなか閉まらないね」と笑いながら言った夜公演と、
その終幕まですべてが、いま思うと「ANZA一色」だった。


わたしはこの素晴らしいライブを2回観ることができた。そのことを深く感謝したい。


夜公演では、最後の曲が終わったあとに35本のローソクが刺さったケーキが運び込まれ、
みんなで楽しく「ハッピー・バースデイ」を歌ったことをつけ加えて、これで終わりとしよう。




SET LIST
Solo part 1
01. Song 5
02. Dream
03. 彼方へ
04. 翼
ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」より  w/岩名美紗子
05. ムーンライト伝説
06. I Miss You
主題歌メドレー
~07. ラ・ソウルジャー
~08. ラ・ムーン
~09. 伝説生誕
10. Over The Times (岩名美紗子 ソロ)
ミュージカル「レ・ミゼラブル」より
11. On My Own
12. エピローグ  w/坂口勝
ミュージカル「GIFT」より  w/小田マナブ
13. 笑ったら
14. GIFT
15. テノヒラ (小田マナブ ソロ)
as HEAD PHONES PRESIDENT
16. Chain (acoustic ver.)
17. Life Is Not Fair (acoustic ver.)
Solo part 2
18. Dearあなたへ (Bette Midler "The Rose" cover)
19. ひとりじゃない (昼公演のみ) / For Ever (夜公演のみ)
20. My Will


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ANZA 「皆ありがとうぅぅっっっ!!」(ココログ) 「ありがとう!」(アメブロ)
Hiro 「this is it...」
坂口勝 「新宿MARZで・・・」
小田マナブ 「ANZA Live終了!」 「集合写真」

I (HPP Fan Site管理人) 「Rose Of May」

4 件のコメント:

  1. 当日はHPPのファンのみならず、セーラームーン時代からのファンのみなさんもいらしたようですね。
    きっと温かな時間がそこにあったのでしょう。

    リンク先の小田さんのブログを拝見しても『ANZAちゃんかっこいいな!』の文字がありましたね。
    誰が見ても、出会っても、かっこいい人って本物の強さを持った人なんじゃないかな。改めてそう思います。

    最近心が萎れてましたが、元気を貰ったように感じます!
    レポありがとうございました♪

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  2. >kanaさん

    毎度コメントありがとうございます。マイスペ時代と変わりありませんね(笑)

    おっしゃる通り、とてもあたたかい時間でした。
    ANZAさんは本人が思っている以上に強いひとだとわたしも思います。
    そうでなければ、ひとを元気にすることはできないですからね。

    ソロもがんばってほしいところですけど、あんなに多忙を極めているなかさらにソロもやったら過労死しちゃうから、ほどほどに(笑)末永く活動してもらいたいです。

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  3. A-姉です。

    素晴らしいブログをありがとう。
    歌を歌っていて幸せだと感じるのは、ライブ会場の空気と永遠に残るであろう本気で受け止めてくれた証を残してくれるこう言うブログ(文)を目に出来る時です。
    Moonちゃんいつもありがとう。
    歌ってて良かった…。

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  4. >A-姉さま

    いえ、そんな…。てゆうか、誰だかまるわかりです(笑)

    わたしこそ、いつもありがとうございます、ですよ。
    書いてよかったです。これからも書きます。

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