「"Pobl Lliw" Acoustic Show at Club Asia」からちょうど8週間後となったこの日、
前回の水戸公演(7月3日)の時に決定したrowthe (ロウジ)とのツーマンライブが行われた。
この8週間の間、HEAD PHONES PRESIDENTはかつてない岐路に立たされていた。
誰もが予想だにしていなかったMarさん(g)の脱退表明、そして解散の危機。
これ以上ない、いやこれより下はない、という精神状態のなか行われたNY公演。
四人でバンドをつづけていく、という決断とともに交わされた約束と、別れ。
11月24日(水)の突然の発表まで1ヶ月間、すべては水面下で進められていた。
山積した課題と作業のため、打ち合わせや挨拶回りやリハーサルで忙しくしていたらしい。
発表後、予想以上のあたたかい励ましにメンバーやスタッフはホッとしたそうだが、
一方で、いくらかの心ない言葉や誹謗中傷に近い言葉も受け取っているらしい。
それだけ、Marさんの脱退は考えられないことだった、とも言える。
わたし自身、信じられなかった。
音楽的な理由でないことは間違いなく、メンバーとの軋轢は尚更あり得ず、
知らないうちに健康を害していたのだろうか、と思ったがそれで「脱退」はおかしい。
タイミングも悪くそして急で、Marさんの責任感を考えると余程のこととしか思えない。
ワンマンツアー、DVD収録など、さらなる飛躍を期待していただけに混乱した。
Marさんの強烈なパフォーマンスはHPPのライブをより熾烈なものにしていたのだし、
「2本のギターが違うことをしている」のが前提となっている曲が多いHPPだけに、
それらの曲がどう演奏されるのか、されなくなるのか気がかりだった。
なにより、Marさんの姿がないステージというのは考えづらく、また寂しいのだった。
聞けば、「個人的な事情」のため脱退に至ったのだという。
Marさんの抱えた「個人的な事情」の断片もわたしは想像できないが、
双方の前途を、いまは応援するよりほかないだろう。
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四人編成となったHPPへの不安と心配が、次第に安心と期待に変わっていくなか、
今回の水戸公演では「コラボグッズ」発売と「コラボソング」発表があるという報せが。
前者はともかく後者は予想していなかっただけにうれしい驚きであり、
当日が待ち遠しくなったのは言うまでもない。
「双響連鎖」というイベント名を考えたのは、そもそもMarさんだった。
はじめは英語のタイトルを考えていて、たまたまその場にいたわたしはMarさんに
「《響く》ってecho?《連鎖》は?」と聞かれたことを思い出さずにいられない。
やっとの思いで会場に着くと、様々な思いを抱えたファンたちが集まっていた。
誰もが「やってくれるだろう」という期待を目に浮かべて、穏やかに談笑していた。
その姿にわたしもホッとして、やはりそんな目をしていたに違いない。
それでは、「双響連鎖」のレポートを以下にお届けする。
記憶に誤差・想像・改変が含まれていようが、その点はご容赦願いたい。
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押し気味の進行で19時をまわってしばらく経ったころ、
ステージ中央のイスふたつにケージェーさん、ジュンキさんがどっかと座って話し始めた。
(前者はrowtheのセカンドギタリスト、後者はバンドのローディー)
バッチリとカンペを持って、それをガン読みしながらのMCである。残念な光景だ。
そのためか、なんだかフワフワした落ち着きのない雰囲気になったなか、
ジュンキさんが、ありえないほどのたどたどしさで「おもしろい話」を始め、
(小学生でももっとうまく話せるというレベルであった)
なんだ下ネタかよ、というオチでオシマイ。この枠、完全にいらない。
「この空気、どうするつもりっスかね」との声があがる。
やってしまったことは仕方ない。もう二度としなければいいのである。
新生HPPの登場まで、しばし待つ。思ったより早く暗転し、その時は来た。
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暗転と同時に、鐘の音が聞こえてきた。
やや遅れて、教会のまわりの雑踏も聞こえてきた。
『Pobl Lliw』の冒頭を思ったが、より張り詰めた空気を感じた。
こちらが緊張していたせいかもしれない。
まずAnzaさんが登場し、BatchさんNarumiさんHiroさんとつづく。
鐘の音がつづくなか、静かにドラムを叩きだすBatchさんにNarumiさんがベースを重ね、
Anzaさんが、祈りとも嘆きともつかない、彼女にしか出せない「声」をさらに重ねだした。
この日のAnzaさんは、黒キャミ黒スカート黒ベルトの標準装備の上に、
粗く編んだニットの上着(長めの袖、襟ぐりは広め、丈は胸まで)をつけていて、
左手首には銀の細い鎖を巻きつけ、左目下には赤いハートを黒く縁取りして描き込んでいた。
Hiroさんと他のメンバーがアイコンタクトをとったところでHiroさんが定位置につき、
"Hang Veil"が始まった。
HPPの断続点と連続性を示すに相応しい1曲目だと思った。
かつてMarさんが紡いでいた音には、湖面を波紋が静かに広がるような柔らかな音のイメージがあったが、
Hiroさんの出す音はもっと硬質で、音が響いている、弦が鳴っているというフィジカルな感触が強かった。
ドラムが入ってヘヴィなコードが鳴らされるとステージは一転して「静」から「動」へ。
Hiroさんは以前通りに自分のパートを弾くため、
イントロからつづく哀切なメロディが絶えた分だけヘヴィな印象が強くなるも、違和感はない。
久々に序盤に披露された"Chain"は、早くも暴走気味なアグレッションでもってプレイされた。
ギターが一本分減ったことで、かえって一音一音が体に響いてくるとでも言うか。
(実際は、ギター、ベース、ドラム全パート全曲に細かい変更が施されているのだが)
ギターソロがクリアに聴こえるようになったのは、この曲にとっていいことかもしれない。
フックのある、聴き慣れないリフをHiroさんが弾きだした瞬間、新曲だと悟った。
ブログで「作業」と書かれていたので察してはいたが、もう披露するとは思わなかった。
リフもベースのラインもヘヴィなので重心は低いのだが、歌メロ自体は解放感のあるもので、
新作の"Reset"に近いものを感じた。「売れ線」とは違った意味での「メジャー感」がある曲だ。
(「ポップ」との言葉は誤解を招きそうなので使わないが、そう言うひともいたと報告しておこう)
どうやら近くに迫っているらしいHPPの変容に思いを馳せていると、
"puppet"によって変わらぬHPPを思い知らされることになった。
ギターが減ったことでソロの時は多少音が薄くなりはするも、
そこはリズム隊の踏ん張りと、Anzaさんのスキャットで難なく乗り越えていた。
(後者には「コロンブスの卵」的な、新鮮な驚きを覚えたのだった)
ここ数年あまりプレイされてないこの曲は、その都度アレンジを変えていたのだが、
今回はむしろオリジナルに戻ったかのような印象を受けた。
どんどんメタルっぽくなっていったアレンジがなくなった分、
かつてのヘヴィ・ロック的な質感が甦ったとでも言うか、
音が整理されてシンプルになったためそう感じたと言うか。
かといって、近年のメタル化が烏有に帰したわけでないことは、
つづく"Desecrate"と"Labyrinth"という破壊力抜群のナンバーの連続で理解できよう。
前者は、5人のときと比べても遜色のない音の厚み、重さを感じたし、
後者は、Marさんと分け合っていたサビをすべてAnzaさんが歌うことで、
逆にオリジナル通りとなったために違和感があろうはずもない。
ここで、Narumiさんのベースから始まる短いセッションを経て、
"Light to Die"がいつものように、しかしいつにも増して感動的にプレイされる。
怒りと哀しみの渦巻く明るい終末、という印象をずっと抱いている曲なのだが、
毎回その表情を変えるこの曲に、この日わたしが感じたものは何だったろうか。
哀しみ、祈り、光、といった記憶がある。怒りは感じなかった覚えがある。
ツインギターのイントロがあまりにも耳に馴染んでいる"Nowhere"がつづいた。
むろん、ギター一本だけでのイントロに違和感がないわけはなく、
また、イントロはギターしか音を出さないため余計に違和感は大きかったかもしれない。
(イントロにつづいて違うリフのセクションを設けていたため流れが少し変わっていた)
Narumiさんはベースをピック弾きし(他の曲でもやっていた覚えがあるが判然としない)、
Batchさんは「わけわからないドラム(by Anzaさん)」をソリッドかつシャープに叩いていて、
全体的にシャープかつスッキリとした印象だった。これからも変わっていきそうである。
Hiroさんが、古参のファンには馴染み深いメロディを奏で出した。
仄かな明るさを湛えていたメロディが一転して、深い哀しみの色に染まる。
"ill-treat"の、ライブ版イントロである。(DVDの『Toy's Box』で確認できる)
個人的に思い入れのある曲なので、様々な感情が去来した。
未だに、得体のしれない「恐さ」を感じさせる曲だ。
以前のように、エンディングを引き延ばさないで(それはMarさんのパートだった)
比較的あっさりと曲は終わり、また短いセッションを挟んで、
Batchさんの、横っ面を引っぱたくような鋭いドラミングから、
"Endless Line"がその趣きや構成を新たにして、プレイされた。
イントロが長くなったというか、リフまで時間がかかるというか、
主に変わっていたのは前半部で、より多彩な表情を見せるようになっていたように思う。
"Sixoneight"がライブの終わりを告げる。
ここまで、Marさんがいないことに驚くほど違和感がないまま見入っている自分がいた。
同時に、メタル的な印象がどんどん強くなっていたバンドに、
かつて感じていたヘヴィ・ロック的な印象をふたたび感じてもいた。
思えば、HPPのメタル的な部分を担っていたのはMarさんだったのだし、
多くのメタルバンドが五人組か四人組でギター二本、ということも考えれば、当然の帰結かもしれない。
それでも、あらゆる感情を撒き散らしてプレイするメンバーのなかに、
Marさんの姿がないことはやはり寂しく感じる。メンバーはそれ以上だろう。
だけど、この日のライブで何か掴んだのではないだろうか。
よりシンプルで、かつ自由度の高い「何か」ができるのではないか、と。
一方で、激情と絶望が交差する"Sixoneight"のように込められた「念」の重い曲では、
四人編成となってもそれまでと変わりない姿を見せることができるのだとわかった。
Marさんがドスのきいたヴォーカルを轟かせていたパートは、
Narumiさんによるピッチ高めのシャウトで装いを新たにした。
以前にもヴォーカルをとったことがあるけど(09年のワンマンで、曲は"Reality")
あの時よりも違和感なく、むしろずっとやってきたかのような安定感すらあった。
曲がカタストロフィックなエンディングを迎えると、
轟音のなか両手をあわせて「ありがとうございました」と言うAnzaさん。
四人編成となっても、HPPはやはり強力なライブバンドであることに変わりはなかった。
前を向いて、揺るぎなく進んでいくバンドをこれからも応援していきたい。
SET LIST
01. Today's intro
02. Hang Veil
03. Chain
04. new song
05. puppet
06. Desecrate
07. Labyrinth
short session
08. Light to Die
09. Nowhere
10. ill-treat
short session
11. Endless Line
12. Sixoneight
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年が明けてしばらくたってから(1月10日)、rowtheよりメールがきた。
なんでも、セットリストは曲名がない仮タイトルのものが複数あるらしく、公開はできないとのこと。
最後に、コラボステージの模様をお届けしよう。
HPPからAnzaさんとHiroさん、
rowtheから末山"つうま"毅さん(vo)と黒澤"ダイス"汏亮さん(g)が、
それぞれイスに座ってのアコースティック・ライブとなった。
上手から、Hiroさん、つうまさん、Anzaさん、ダイスさん。
Anzaさんはすでに着替えを済ませていて、
私服姿でステージにいるのがなんだかヘンな感じがした。
Hiroさん、ギターの音が出なくて困ってる。
その間、この「双響連鎖」が東京で8月に催されることがアナウンスされた。
(日程はまだ決まっていないらしい)
また、「HPPとrowthe、どっちが暗いか」という「永遠の問い」がステージ上で問われ、
オーディエンスの挙手で決着をはかろうとするも、あまり判然とせず。
個人的には、どちらも暗いのではなくて「光はあるが、月の光」なのだと思っているし、
GASTUNK、DEAD END、LUNA SEA、DIR EN GREY、(初期の)ムックといったバンドと同じような、
日本のバンド独特の空気を纏った「月の眷族」の一員と見ているのだけど、
本人たちは「ホンットrowtheって曲暗いよね(Anzaさん)」
「いやいや、そっちは漆黒の闇じゃないっスか(つうまさん)」
といったやりとりを延々としているのだった。
Hiroさんの用意ができたところで、曲に。
rowtheの曲で"導(しるべ)"である。
難しいアルペジオと複雑な展開を持つ長尺の曲で、
AnzaさんのヴォーカルとHiroさんのギターが、原曲にはない彩りを添える、というもの。
時間がなかったためほとんど一発勝負だったようだが、
お互いの(人間的・音楽的な)相性の良さを感じさせる、いいセッションだった。
曲が終わって、立ち去ろうとするつうまさんとHiroさんだったが、
Anzaさんとダイスさんはニコニコ笑いながら、まだ座ってしゃべっている。
そこへ、ケーキを持った石倉"のんメル"叶望さん(b、女性)が現れて、
「Happy birthday to you♪」と歌いだすAnzaさん。
驚いたまま目を見開いていたつうまさん、やっと何が起こっているのか理解したもよう。
翌18日が誕生日のつうまさんを祝うため、シークレットで準備していたようで、
両バンドのメンバーも全員出て来て、とてもうれしそうにしていた。
「なかなか立たねぇなぁ~、とは思ってたんだけど・・・」
とは言いつつも、ローソクの火を吹き消してから
「今日は本当に素晴らしい一日となりました」
と挨拶するつうまさん。
こういった人柄の温かさが窺えるのも、両バンドの特徴かもしれない。
(もっとも、オフのときの話であって「オン」のときはまったく違うのだが)
最後に記念撮影をして、この日は無事終了。
ライブが素晴らしかっただけでなく、
新たな可能性をも垣間見ることができたうえ、
最後の最後にはあたたかい気持ちになることができた。
このイベントをキャンセルすることなく、
無事に成功させたHPPとrowtheに深く感謝したい。
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