2011-04-23

CATHEDRAL at Shibuya Club Quattro on 20th Apr

  

去る水曜日、CATHEDRALは日本最終公演を行った。


今回のツアーでライブ活動を終了し、来年の新作発表をもって解散するというアナウンスがあったのは、
あれはゲイリー・ムーア逝去の前だった覚えがあるから、1月末ごろだっただろうか。

CATHEDRALは長らくオンタイムで追ってきた大切なバンドだったので、とてもショックだった。
ライヴも、10年前のOn Air East(現在は大幅に改装されてO-East)公演でしか観ていない。
2006年のLOUD PARKは、仕事とその準備で行けなかった。そんなもの放っとけばよかった。


CATHEDRALは奇妙なバンドだ。

BLACK SABBATH直系のメタリックなリフ、70年代ブリティッシュ・ロック/プログレ的なアレンジ、
UKハードコアのささくれたギター・サウンド、そしてときにディスコ風のダンサブルなグルーヴ、
これらが違和感なく統合され、その上にリー・ドリアンのへったくそなヴォーカルがのってなお、
いやむしろ、リーのヴォーカルがあってこそ特異な音楽性/世界観を完成する、というバンドなのだ。


その歴史を振り返ってみたくもなるが、それはわたしの力に余る。
以下にライヴレポをお届けして、彼らへ感謝を捧げることにしたい。

なお、MCはわたしの聞きとりが怪しいので割愛させていただく。



* * * * * * * * * * * * * * *



18時半ごろに会場に入ると、すでにフロアや上段の7割ほどが大勢のひとで埋まっていた。
これはうれしい驚きだった。この4日前にチケットを買ったらまだ400番台で、入りを心配していたのだ。

地震や原発問題などから来日公演の延期・キャンセルが相次ぎ、そのためこの公演も心配だった。
チケットを買ってからキャンセル・払い戻し、というのは気が滅入るし面倒だから、確信が持てるまで待った。
たぶん、同じような思いのひとが多かったのだろう。当日券で来たひとも相当数いたのではないだろうか。

開演がアナウンスされるころにはほぼ満員となっていて、
これならもっと大きい会場でやってもよかったのでは、と思わざるを得ない。


場内が暗転し、SEに新作から玄妙なインスト"The Guessing Game"が流れてくる。

曲が終わりに近づいて、メンバーがゾロゾロと登場。
レオ・スミーはすでに脱退していて、初期ベーシストのスコット・カールソンが再加入している。

レオは最新作でもムーグやオート・ハープなど様々な楽器を演奏していて活躍していたのに、
インタビューで「今のところまだメンバー」といったことを言われていたのが意外で、
それでもこうして現実に脱退となると、逆に「やっぱり…」と納得させられてしまった。


優美とさえ形容できたレオがいなくなって、ステージ上には近寄りがたいルックスのメンバーがズラリ。

サポート・キーボード・プレイヤーはスキンヘッドに眼鏡のおじさんで、知人のM.Kさん(米人)そっくりだった。
スコットは長髪長身の「いかにもロック・ベーシスト」な風貌。少しクレイグ・ゴールディ(DIO)に似てる気がした。
ブライアンは少し太り、白髪も増えた気がしたが、相変わらず怪しいオッサン感バリバリである。
ギター坊主と化して随分になるギャズは、ANGEL WITCHのTシャツを着用。NWOBHM魂、ここにあり。
そして、藤色のぴったりした長袖を着たリー・ドリアンが登場。少し、腹が出たもよう。


ブライアンの強烈なシンバル・ヒッティングで新作から"Funeral Of Dreams"が始まると、
CATHEDRAL独特の、縦に激しく上下するノリのリフにフロアが早くも大きく反応する。

しかしこれまた一筋縄にいかない曲で、
リーの語りのようなパートとメロトロン・パートが交差する静かなパートが合間合間に挟みこまれ、
その度に場内は不思議な雰囲気に包まれ、ステージを見入り、またリフで上下、ソロ、メロトロン、またリフ、
という風に次から次へとパートが移り変わっていくのが、どこか胡散臭い手品を思わせてとても好きだ。
場末のサーカスに突如現れた香具師が、グロテスクなのにユーモラスなショウを見せて、また去っていくような…。


次は2ndからヘヴィな"Enter The Worms"がつづいた。
サウンドはとても良好で、ギャズの、仄かにハードコア感があるサバス的なギター・サウンドが素晴らしい。
ブライアンのドラミングも巧みなスティック捌きで、当たり前だがとても巧い。そして心地よい。
ラウドなドラムとヘヴィなギターを縫い合わせるような、スコットのベースもとても達者だった。

とはいっても、主役はリー・ドリアンに決まっている。
猫背のままステージを徘徊したり、オジーのような垂直蛙跳びを決めたり、
マイク・コードで首を絞めたり猿ぐつわをしたり、顔を揺らして頬をブルブルさせたり、と大忙しである。
もちろん、ギター・ソロではヘンテコなポーズで手をギャズに向けてヒラヒラさせるパフォーマンスも健在。


前作の"North Berwick Witch Trials"と、
2ndから"Midnight Mountain"というアッパーな曲の連打で大変な騒ぎに。

前者はNWOBHM的なメロディアスなリフが映える、彼らにしてはかなりストレートなメタル・ナンバー。
歌メロもかなりキャッチーである。まあ、世間がこれを「歌」と認めるかどうか、危ういところだが。

後者は言うまでもなく、代表曲であり名曲。
リーといっしょに「あう、いえーっ!」の雄叫びをあげ、あとは歌って踊ってヘッドバンギングしてクラップして、
というただひたすらに楽しい曲に誰もが笑顔だったのではないだろうか?

そして後半は「うわぁ~お!」を合図に、さらに上下動のあるパートに突入。
10年前、フロアで大暴れした記憶が甦ってきた。いまは大人しくその場で楽しむに止まる。隔世の感あり。


初期のEP収録曲であるレアな"Cosmic Funeral"のタイトルがコールされ、驚き混じりの歓声が上がる。
ここに来たひとの多くはダイハードなCATHEDRALのファンなのだと思い至り、ふたたびうれしくなる。

前半ドロッドロ、後半は徐々に盛り上がる、という展開の曲で、ある種プログレ的な曲と言えようか。
最初期からその傾向はあったにしても、そのブリティッシュ・ロック/プログレの素養を十全に活かすには、
それなりの期間と様々な楽曲による試行錯誤があったのだと、改めて思い至る。

新作の咀嚼力が尋常ならざるものだったので忘れていたが、はじめからそんなに巧かったわけではないのだ。
この"Cosmic Funeral"も試行錯誤のひとつで、この頃から「メタルから70年代へ」より深く向かい始めたのだった。


つづく1995年発表の3rdのタイトル・トラック"Carnival Bizzarre"は、その傾向を代表する曲かもしれない。

ツイン・ギターの五人組編成が終わり、ベースとドラムのリズム隊も変わって、四人組としての再出発。
ゲストに大御所トニー・アイオミを迎えての原点回帰(ただ、当時のサバスは大袈裟に言うと「落ち目」だった)。
一番変わったのは、レオとブライアンの加入でブリティッシュ・ロック的なサウンドが得られたこと、だろう。

NWOBHM的な陰湿でくぐもった地下音楽感は保ちつつ、その重心をメタルからそれ以前のものへとシフトさせ、
時代錯誤な曲作りの中に見事活路を見出したのだった。(ただし完成はされてなく、以後その実験はつづく)

ギター・ソロは大幅に変えられていたように思ったのだけど、聴き込みが足りなかったからだろうか。
「こんなに素晴らしいソロだったっけ?」というのが偽らざる感想で、ただただ聴き惚れていた。

蒼古たる森に分け入り、見上げた梢のわずかな隙間からそれと認められる星辰を目にしたかのような、
精神がここではないどこかに強制的に接続されてしまう、とても詩的で美しいソロだった。名演だと思う。


同じく3rdから"Night Of The Seagulls"が、最初期の「牛歩戦術」とまで言われた遅さではないにしろ、
オリジナルよりもテンポを落として(と、感じたのだけど、わたしだけだろうか)プレイされた。

とてもヘヴィで、人間の暗部を寓意化・楽曲化したような印象があるものの、
同路線のもっと完成度の高い曲はあるだろう、とも思った。3rdの曲をつづけることに意義があったのかもしれない。


さらに、1stから「これぞ牛歩戦術」の"Ebony Tears"がプレイされる。
これでも1stでは聴きやすいほうの曲なのだから、いやはやまったく恐ろしい牛である。

リーも「ええ~ぼねぃ~、てぇぃあぁ~~ず」と、完膚なきまでにへったくそなヴォーカルを聴かせる。
顔を指で撫でて涙を演出しても、リーがやると素人感全開ゆえの味があるから、ますますもっておもしろい。

上手いヴォーカルだったらいいのかというとそうではない、というのがCATHEDRALのCATHEDRALたる所以で、
「自分たちにしかできない自分たちの音楽」をずっとやってきたこと、だからこそ生き残っているのだということ、
それを、こんなに屈折したかたちで認識させてくれるのだから、個性的としか言いようがないではないか。


ブルータルな牛がようやく歩みを止めると、ふたたびアッパーな曲がつづいて騒乱状態に。

新作の"Casket Chasers"もまた、CATHEDRAL史上もっともストレートなメタル・ナンバーのひとつ。
サビではフィストを振りかざして「Take Your Time♪」合唱と「Cas!ket!Chasers!」シャウトがキマる。

前作の"Corpsecycle"は「問題作」と言われたほどのキャッチーさを誇る曲で、もはやポップスとさえ言えよう(?)
それでもリーのきったないヴォーカルと、ギャズのザクザクしたリフのため「やっぱりCATHEDRAL」なのだ。


とうとう、終わりが来てしまった。

2ndの"Ride"が終幕を飾る。
彼ら独特の、としか形容する気がおこらない縦ノリのキャッチーなナンバーに、フロアが波打っている。

ズンダズンダズンダズンダ、と絶妙なグルーヴで前進するリフ、
リーのヘンテコなヴォーカル、ともに最高である。

サビの「Rise from the ashes of stagnation!」は全員で大合唱だったが、
つづく「Crystal warriors of damnation!」は前方のオーディエンスにマイクを渡して歌わせる、という太っ腹ぶり(?)

ギター・ハーモニーが美しい曲だけど、そこはさすがに再現できないのでシングル・ギターで違うフレーズを、
それでもこの曲にぴったりと合ったソロを挟みこんでくるギャズ、やはり素晴らしいセンスの持ち主だ。


大歓声に包まれ、ステージを後にする面々。ブライアン、満面の笑みであった。


アンコールでは、キーボードのおっちゃん(名前失念。デイヴさんだったと思う)が出てきてソロを弾きだし、
メンバーが合流して3rdの"Vampire Sun"が始まった。「かもん!」「おぉる、らぁいっ!」な縦ノリソングである。

案外あっさりと終わり、ふたたび引っ込んでいくひとたち。
もちろんこれで終われるわけがない。

というか、ステージ袖から盛んに煽っている人物は、ローディーかと思いきやリー総帥そのひとではないか。
「なにやってんねん」的な温かい笑い声とともに、それに応じるオーディンス一同。


そうこうしていると、すぐにまた出てきた。
他のメンバーがタオルで汗を拭いたりデジカメでオーディエンスを撮影したりドリンクを飲んだりしながら登場。


今度こそ本当に最後となる曲がコールされる。
3rdの"Hopkins (The Wicthfinder General)"だ。

冒頭のギターからして最高なのだが、実にキャッチーでノリのいい曲だ。
ズンズン進んでいく魔女狩り将軍の不穏な行進に引かれていくわたしたちは、
さながらハーメルンの笛吹きに連れ去られていくこどもたちにも擬せられよう。


CATHEDRALのライブが、こうして終わった。

やってほしかった曲は他にいくらでもあるが、いまは来てくれたことを感謝したい。

これが「最期」とは思えないほど、楽しい時間だった。
もう観られないのは残念でならないが、彼らの判断を支持し、最終作を楽しみに待つことにしよう。



SETLIST

SE: The Guessing Game
01. Funeral Of Dreams
02. Enter The Worms 
03. North Berwick Witch Trials
04. Midnight Mountain
05. Cosmic Funeral
06. Carnival Bizzarre
07. Night Of The Seagulls
08. Ebony Tears
09. Casket Chasers
10. Corpsecycle
11. Ride
Encore
12. Vampire Sun
Encore 2
13. Hopkins (The Wicthfinder General)



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2 件のコメント:

  1. 牛歩戦術(笑)

    すみません。実はこちらのバンド知りません。
    何故か人間椅子が脳裏に浮かんできたのですが、
    そういう感じではありません・・・よねぇ。

    はい。本当にすみません。

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  2. >kanaさん

    いえいえ、人間椅子が出てくるなんて、いい線いってますよ!
    怪しくもファニーなところのある、あんな感じ…近いですよ。
    ただ、同じサバスフォロワーでも、CATHEDRALは英国臭が強烈な点が決定的に違いますね。

    万人に薦められる代物ではないけど、The Garden Of Enearthly Delights(2005)がいちばん聴きやすいかな。
    ヴォーカルは、あれはもう聴いて慣れるしかないです(笑)

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