夜長オーケストラをご紹介したい。
と言っても、紹介できるほど詳しく知っているわけでもないし、
ライヴに行こうとチケット予約をしたのが当日のわずか5日前だったりする。
その点、先月にご紹介したRouse Gardenとは事情がまったく異なるのだが、
応援していきたいことに変わりはないので、多少のムリはあるかもしれないが書くことにする。
夜長オーケストラ、という名前を知ったのはいつだったか。
マイスペで、マイスペフレンドが何か呟いたのが最初だった覚えがある。
でも、そのとき一度きりだったので、その時期も定かではない。
春か夏か秋か、覚えていない。でもその名はすぐに覚えた。
わたしはメタルやハードロックを主に聴いている人間だが、プログレもそれなりに聴いている。
だからよくdiskUNIONプログレ館のHPをチェックしていて、そこでふたたび夜長の名前を目にしたのだった。
去年リリースしたアルバムの再リリースと、今月末のライヴの情報をそこで知った。
そのときは、色々と思い悩むことばかりで鬱々とした日々を送っていたのでスルーしたのだが、
その後の心理的な身辺整理で余裕ができたのかまた気になりだし、急遽ライヴに行こうと思った。
アルバムも事前にプログレ館で購入し、予想通り・予想外・予想以上が交錯する音楽に惹かれ、
目前に迫った28日当日のライヴを楽しみにしていた。といっても、わずか3日間ではあるが。
夜長オーケストラの来歴や、28人にも及ぶメンバー紹介はOfficial HPに任せるとして、
クラブ・ミュージック、エレクトロニカ、ロック、ポップ、そしてクラシックを標榜する、
自称「踊れるオケ」夜長オーケストラの音楽性とは、いかなるものか?
簡単なレヴューをアマゾンでした(1stと2nd)ので、そちらと重なるところばかりだけど、
第一印象は「FFのようなゲーム音楽(いい意味で)」であり、次いで「ロックというよりメタル」、
さらに「このフルートとリズム隊はプログレ」で「ダンサブルなアレンジはあくまで脇役」というもの。
その後、聴き込むにつれ夜長の「ダンサブル・パート」もけっこうな比重が置かれてるのだと、
とくに2ndを聴きながら思いはしたけど、基本線はもちろんクラシック/吹奏楽に決まっている。
ところで、こうしたオーケストラが演奏するジャンルをどう呼んだらいいのか、悩んでしまう。
一応「クラシック」「吹奏楽」としてみたものの、演奏曲は古典とは限らないし、
ジャズやオールディーズなどポピュラー音楽、映画やドラマやゲームなどで使用された音楽、
また、しばしば忘れられがちな軽音楽(運動会の曲など、ルロイ・アンダーソンのものが多い)、
そしていわゆる「ワールド・ミュージック」として括られる民族音楽ないしその現代版、などなど。
言い方が宙に浮いたまま、一応という保留状態のままで慣習的に「クラシック」と呼ばれること、
そのため「堅苦しい」「格式ばっている」「偉そう」といった誤解・偏見が伴いつづけていること、
そうした呼称のズレへの苛立ちのような思いは、彼ら奏者の方がはるかに強く持っていることだろう。
(書道や茶道の「真・行・草」なる概念で再構築できなくもないが、時間かかるし面倒だからやらない)
『のだめカンタービレ』の成功でふたたび活況を呈した「クラシック」業界だけど、
実はそれだけの奏者/お客の層の厚みが「元からあった」からこその「活況」だったのだし、
そうした意味において、日本は世界的に稀なほど「クラシック」音楽好きな国民を抱えているわけで、
ゆえに、ポピュラー音楽を「クラシック」で再構築した夜長オーケストラの可能性は、とても大きい、と思う。
それでは、以下に28日に高円寺HIGHで行われたワンマン・ライヴのレポートをお届けする。
* * * * * * * * * * * * * * *
開演30分前くらいに会場到着。初めてのライヴハウスなので迷いかけた。
あまり主張の大きくない作りで、看板が出てなかったらたぶん気づかなかった。
(看板がないということは滅多にないだろうが・・・)
もっとも、えらい暗くて見にくかったけど
受付で特典CDとフライヤーとセットリスト/プログラムをもらう。
すっかり忘れていたが、何度か行ったことのある吹奏楽のコンサートでは毎回プログラムを渡されていた。
今更ながら、ロック・バンドとは違ってここらへんは「ふつうのオケ」と同じなのだな、と思った。
ちなみにこういったプログラムとCD。サインつきだが、人数が足りない…。
階段になにやらわけのわからない妖怪的なオブジェがあって笑う。
写真だと本格的に不気味だけど、実物はかなりファニーである。
ステージにはイスや楽器や譜面台が文字通り「所狭しと」並べられていて、
ヴォーカル用の足場とキーボードはステージ上手の下、要するにフロアに置かれていた。
モニターもステージから下ろされていて、イスの上に鎮座していた。珍しい光景である。
開演5分前になって団員の和田さん(sax,cl)が登場し、前説的なトークを始める。
ustreamで中継をするらしく、自らiPhoneを操作しながら「呟いてください!」と呼びかける。
なんでも、さっきやっと中継の準備が整ったらしい。わたしも慌ててRTしたのは言うまでもない。
そうこうするうちに開演時間になったため「もう出てきてください」。ゾロゾロと出てくる人また人。
当たり前だが大勢いるため時間がかかる。ステージも狭くて、早くもあちことで譜面が台から落ちる。
その間に到着した(?)コンサート・ミストレスの寺島貴恵(きえ)さん(v1)の姿を見て、
ステージ上からは「おお、間に合った」との声が上がる。この人たち大丈夫か、と思ったのは言うまでもない。
主宰の中村さん(g)がマイクを持って「大変な状況のなか、よく来てくれました」とか、
「いや本当にまさかこんなことになるとは…」とか言ってたら団員から「暗い!」と叱られ、
「じゃあ、始めます」という多分になし崩し的なかたちで、5周年記念ライヴは始まった。
スクリーンには空や森や川が映し出され、5th Anniversaryの文字が出て演奏が始まった。
前説でも言っていたように、冒頭の3曲は新曲だった。
それぞれ、中村さんが「ピチカート・ファイヴ」「バロック調」「m-flo」と説明(?)していた。
「夜長版ピチカート・ファイヴ」らしい"恋ノ大都会"は、それでも前半は天を駆けるが如き爽快感の曲で、
FFでお馴染みの飛空艇が飛んでいく姿が目に浮かんだのだったが、中盤から矢野さん(Cb/Eb)のヴォーカル、
後半から前説での予告通り和田さんのラップが入って、確かにピチカート・ファイヴだったのかもしれない。
"Time, take your time""cura"とさらに新曲がつづき、すでに夜長の素晴らしい演奏に魅了されつつも、
いつも観ているロック系のパフォーマンスとの、言わずもがなの「違い」に「ああそうか」と一人納得していた。
オーケストラとロック・バンドとの決定的な違いは「身体的パフォーマンスを要さない」ことにある。
その分、視覚的な刺激に本来なら欠けてしまうところを、
VJを招いてスクリーン上に映像投影することで補っていたのだろう。
また、奏者は譜面を見ながら演奏するのだし、自分のパートが休みのときだってしばしばある。
そうすると、演奏中にキョロキョロしたり近くのひとと耳打ちしたり、ということがあってもおかしくはない。
(ロック・バンドで「休み」というのは滅多にない。あったとしても、ステージ袖にはけている)
はじめはかなり違和感があって困ったが(極度に緊張感のあるライヴに慣れ切っているためだろう)、
3曲目で和田さんがふたたびラップをするころには、誰もが楽しそうにしているので気にしないことにした。
2ndから"碧(みどり)"が、ついでアルバム未収録曲"GGB"が演奏される。
前者は、かなり真っ当に(?)クラシカルなヴォーカル曲。yuiさんのコロラトゥーラ・ソプラノが実に美しい。
後者は、聴いていて「Roaring Twenties」なる言葉を思い浮かべてしまうような、モダニズムを感じさせる曲。
もしくは、ジャズの…あまり詳しくないので違うかもしれないが、ビバップかハードバップ、だろうか。
ここで第一部が終わったのだけど「進行が押している」ということで、そのまま第二部へ。
ストリングス隊が残り、「震災に遭われた方に」と"soldier"が紹介される。とても哀切なナンバーである。
つづく未収録曲の"上昇気流"は、その名の通り強烈な飛翔感のある曲で、流麗なメロディから一転、
ダンサブルに弾けるという構成も素晴らしく、一発で気に入った次第。次作に収録されるのだろうか。
中村さんがいなくなったなか、"君をのせて"(『天空の城ラピュタ』主題歌)が始まる。
yuiさんが美しいソプラノを聴かせるなか、顔を見合わせるストリングス隊。何かあったのだろうか。
そういえば、ピアノの音がない。でも、ここからは渋井さん(pf)の姿は見えないので、よくわからない。
五十嵐さんがチェロを弾きだして、ほかの弦楽器が合流。アレンジだったのか、アドリブだったのかは不明。
1stの"夢の翼"は、日本語詞の比較的クラシカルなスタイルの曲。
ヴォーカルがキンキンしたソプラノだったら鬱陶しく感じたかもしれないが、
夜長が擁するyuiさんは柔らかい声質で聴きやすいので、そうしたことにはならない。
第二部が終わり、10分間の休憩を挟んで、ふたたびゾロゾロとメンバーが戻ってくる。
(いや、"夢の翼"で一部戻ってきてたのだったか?情けないことにもう忘れてしまった)
第三部は「もっとアゲアゲでいきます」と宣言される。
どこのMCだったか忘れたのでここということにしておくけど(ほぼ毎回MCがあるので覚え切れず)、
五十嵐さん(vc)は郡山市在住で、こちらへ来るのに難儀したらしい。移動手段が車しかないのだ。
「高速道路、すごいボッコボコでした」「福島のひとは、ふつうに生活してます」とのこと。
これもどこのMCだったか忘れたのでここということにしておくと、
寺島さんは前日(27日)が、石塚さん(hr)は翌日(29日)が誕生日とのこと。
だらだらした"Happy Birthday"が、なんだか夜長らしくて楽しいのだった。
2ndの"Call of the wild"と、代表曲の"群青US"(表記はプログラム通り)がつづく。
部分的に、ほとんどシンフォニック・ヘヴィ・メタルと言って差し支えない前者も、
明朗でクラシカルな後者も、オーケストラならではの「勢い」に満ちていてとても心地よい。
ホーンセクションの突き刺してくるような音は、こうして生で聴くと迫力がまったく違う。
CDにライヴの躍動感や音質をもたらすのはライヴバンドにとって永遠の課題のひとつだろうが、
裏を返せば、彼ら夜長オーケストラは間違いなく「ライヴバンド」なのだ、と確信したのだった。
ふたたびアルバム未収録曲がつづく。むかしからのレパートリーなのか、最近のなのかはわからない。
"Fate in F"は前半がしっとりしたバラード、後半がアップテンポな(違ったか?)ヴォーカル曲、
"Alien Dub Alias"も…いや、この曲はもう忘れてしまった。前曲の後半と印象が混ざってしまった。
「歌える方はご一緒に」と言われたから、以前からある曲なのだろう。
この日配布された特典CDに収録されている"Happy Monday"は、たしかに歌のパートのある楽しいナンバー。
20年代アメリカを想起させる絶好調で賑々しい冒頭から、一転してストリングス隊が落ち着きを取り戻させ、
また賑やかになったと思ったら、ここでとうとう中村"Naka-G"康隆の7弦ギターソロが炸裂する、という…。
この流れは完全にメタルだなぁ~、とうれしくなる。
中村さんの体型がいわゆる「様式美ギタリスト」型であったことも、ここにご報告しておこう。
ラストは、その名に「メトロポリス」の面影を読み取ることができる"Metronika"である。
元々は劇作『サロメ』用に書き下ろした曲だそうで、初期夜長のころからある曲であるためか、
1stと2nd双方に収録されている。何か、三部作を通底するテーマがあるのかもしれない。
「メトロポリス」と言えばフリッツ・ラング、手塚治虫、MOTORHEAD、と相場は決まっているが、
摩天楼の威容を仰ぎ見るかのような、もしくはその高層から辺りを見渡すかのような、
曰く言い難い高揚感(微量に混入された威圧感がアクセント)があって、お気に入りである。
時間の都合か、はけるのが大変だからか、その場に止まってアンコール。
まずは、今年大学を卒業したばかりだという矢野さんと佐々木さん(sax)がメインの曲。
"桜舞う扉開く"はまさに「卒業」を歌った曲で、矢野さん自ら歌い、佐々木さんのソロにつないだ。
ほとんど「ふつうのポップス」だけど、オケならではのアレンジで聴かせるあたりがよいと思った。
コンピレーション盤に収録されている"Phantom Blue"が、ラストを締めくくった。
わたしが初めてマイスペで聴いたのも、この曲だった。これまた「ほとんどプログレ・メタル」な曲だ。
最後の最後、これでもかとフルートを吹きまくる今井さんに「おお、これはプログレだ…」とのけぞる。
王紅、創世記、駱駝、JT、VDGG、といった名前がアタマをよぎっていく。わたしのフルート好きの起源なのだ。
プログレ館やワールド・ディスクが夜長を取り扱った最初の店というのも、必然だったようである。
エンディングに辻村さん(Activator)がズガァーッとまくしたてるようにメンバー紹介をして、終了。
実に楽しいライヴだった。ロックのライヴと、その点さして変わりはないのである。
もっと広いところで、もっと頻繁にライヴができるようになったらいいな、と思った。
28人もメンバーがいるのだからムリは言えないが、今は三部作第三弾を待つとしよう。
SETLIST
Section 1
Opening
1-1. 恋ノ大都会 (new song)
1-2. Time, take your time (new song)
1-3. cure (new song)
1-4. 碧
1-5. GGB
Section 2
2-1. soldier
2-2. 上昇気流
2-3. 君をのせて
2-4. 夢の翼
Section 3
3-1. Call of the wild
3-2. 群青US
3-3. Fate in F
3-4. Alien Dub Alies
3-5. Happy Monday
3-6. Metronika
Encore
1. 桜舞う扉開く(new song)
2. Phantom Blue
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