2013-03-24

Music 2012: MY BEST 10



「2011年ベスト」は2011年大晦日と2012年元旦にまたがって書き継ぎましたが、
未聴の作品も多々あり、次回はBURRN!の人気投票と同じ時期、年度末にやろうと思い、
この時期にまで「2012年ベスト」を遅らせることとなりました。
(「2010年ベスト」5部作は削除しちゃったんですよね…もったいないことしました。)


基本的にメタル耳のわたしなので、音楽的にはHR/HM方面がメインとなります。
また、今回は「2011年リリースだけど、国内盤が2012年に出た」ものも入れました。
さらに、ジャンルもメタルと非メタルに分けないで、順位もつけることにしました。

気に入ったものすべてを書くと長くなるので、今回は「2012年ベスト10」です。
10位から1位まで、カウントダウン形式でお届けいたします。

次点となった20枚近い作品については次回、シーンを概括しながらあらためて触れることにします。



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No.10  Outer Isolation [2011] (VEKTOR)

若手スラッシャーの突然変異、アメリカはアリゾナ出身のVEKTORの2ndです。
(元のリリースは2011年ですが、国内盤が1月に出たので選考対象としました。)

モロにVOIVODを思わせるSF的な世界観とプログレッシブな音楽性なのですが、
VEKTORはパンキッシュな攻撃性よりもブラック・メタル的な暴虐性の成分の方が濃く、
またテクニカル・メタルとしての側面があるほどにその演奏や楽曲展開は複雑で、
にもかかわらず、「キャッチーなリフの集積」としてもすんなり聴けてしまう逸品です。
もちろん、スラッシュ・メタルだから超攻撃的でファストな「やかましい」音楽であります。

いきなり10分を超える曲からアルバムが始まるのだから驚かされますが、
真に驚くべきはその多彩にして切れ味抜群なリフのクオリティの高さです。
あらためて言うまでもなく、ヘヴィ・メタルの範疇に入る音楽の肝はリフです。
そのリフで楽曲をどう組み立てるか。素材と構成、そのどちらも文句なしの出来でした。

「昨今の若手スラッシュ・メタル勢は、80年代産の古参組と違って何か物足りない。」
そう感じているわたしのような古株リスナーもたくさんいらっしゃると思いますが、
「個性的なスラッシュ・メタル」をすでにして確立してしまったこのアンファン・テリブルたちは、
そうした定型に埋もれてしまうような輩ではありません。ぜひチェックしてほしいところです。
(バンドの来歴などについては、スピリチュアル・ビーストによるバイオグラフィを。)



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No.9  The 2nd Law (MUSE)

現在、世界最高のロック・バンドとして認知されている英国のMUSE、貫録の6thです。

初期のMUSEは「RADIOHEADのフォロワー」ぐらいにしか思っていなかったのですけど、
2006年の『Black Holes And Revelations』でやっとその凄さに気づきました。
ファンの間で賛否両論の「問題作」である本作が、個人的にはいちばん好きです。

MUSEが面白いのは、QUEENのように壮麗さと大衆性をうまく接合できていることでしょう。
マシュー・ベラミーという稀代のヴォーカリストを擁していることを差っ引いて考えても、
そのメロディ・センス、演奏力、楽曲構築術、アレンジ能力、すべて世界最高水準です。

確かに、本作は突き抜けたところのない、なんだかフワフワしたところのある作品です。
終盤もクリスが歌う2曲から謎めいたタイトル曲2曲の連鎖で終わるのが興味深いものの、
それ以前の流れから得られる高揚感が薄れてしまい、なんだか中途半端な感もあります。
ただ、わたしとしてはそこが気に入りました。大仰だけど派手になりきらないところが。

アートワークや熱力学第二法則というコンセプトのためか、
真っ暗な宇宙を浮遊するイメージにとりつかれたまま、
気持よく(しかし不安を抱えつつ)聴くことができます。



鉄拳によるこのPVも素晴らしい出来で、初めて見たときは涙が止まりませんでした。
「痛み」のため剥がれ落ちる肌、「愛」の象徴としての赤子、そして繋がれる手と手…。

一人でも多くのひとに見てもらいたい映像作品です。絶対に見てください。
安い感動や薄い共感とは決定的に異なる、真に「感動的な」表現だと思います。



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No.8  シャングリラ  (MUCC)

いまや日本を代表するロック・バンドの一角を担うにまで成長した、MUCCの11thです。
(表記はMUCC/ムック、作品名もカナ/英語で悩みましたが、上記の記法にしました。)

元々は日本的情念を歌うかなり暗い「ヴィジュアル系」バンドとして出発したMUCCですが、
ロック、メタル、パンク、オルタナ、ミクスチャー、ポップ、昭和歌謡、トランスと、
あらゆるジャンルを咀嚼・吸収し、ついにそのすべてを融合させることに成功しました。

キャッチーでカラフルな「ジャンルの違う」楽曲が次から次へと挑発的に繰り出され、
そうしたジャンルの混淆を違和感なく聴かせることができるほど統一感があるという、
活動15周年を迎えたMUCCの、まさに集大成となる傑作になりました。

初めて聴いたとき、あまりの完成度の高さに度肝を抜かれました。とくにアレンジが凄い。
わたしは熱心なファンではありませんけど、とうとうここまで来たか、と感嘆しました。
日本のバンドにしかできない、日本語ロックの新たな金字塔と言っていいと思います。




ちなみに、本作は通常盤・初回限定盤・完全生産限定盤と3種類あって、
このジャケはライブ盤つきの初回限定盤です。ライブ盤もいい内容でした。
(ただ、ジャケはMUCC史上最低だな、とは思いましたが・・・。)



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No.7  Dream Demon Analyzer (DEAD END)

2009年に復活を果たしたDEAD ENDの、再臨後2作目となる6thです。
残念ながらドラムのMinato(湊雅史)が不参加で、山崎慶がサポートとして叩いています。

仮にこの作品を映画に喩えてみると、
前作『Metamorphosis』(2009)を「黙示録的ヴィジョンが展開される荘厳なモノクロ作品」とするなら、
本作はさしずめ、「逸脱者たちのビザールな饗宴を描いたカラー作品」といったところでしょうか。
(前者はカール・テオ・ドライヤー、後者はフェリーニに監督していただきたいですな。)

前作が長篇小説、本作は短篇小説(の連作)、という印象もあります。
いずれも統一感があることに変わりはないのですが、本作はより多彩なんですね。
とくに、Youさんによるギターワークが素晴らしい。変幻自在なソロは驚異的な完成度です。
Morrieのヴォーカルも妖しさが増し、Joeのベースも前作よりクリアになりました。

その分、わたしにはMinatoの不在が大きかったように感じられました。
山崎慶が「役不足」なのではなく、これはバンドというケミストリーの問題なのです。

Morrie率いるCREATURE CREATUREの新作にMinatoが参加した曲があるのですけど、
その圧倒的な個性に、Minatoの存在ないし不在の大きさを痛感した次第です。

もし、Minatoがレコーディングだけでも本作に参加していたら、まったく別の作品になったでしょう。
そして、わたしにはそれこそが「この作品の真の姿」ではないのか、と思えてならないのです…。
(もっとも、好みの音楽性ゆえにこの順位となるわけですが。)

とは言え、メロディアスで攻撃的なギター、哲学的な歌詞、妖艶なヴォーカルを堪能できる、
超個性的な逸品であることに変わりありません。気に入ったら前作もぜひ。年代順もオススメです。
(ボツにしたDEAD ENDブログ3本、今年こそ何とかしなければ…。)



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No.6  Wrecking Ball (Bruce Springsteen)

「ボス」ことブルース・スプリングスティーンの、21世紀最高傑作となった17thです。

前評判が異様に高かったので警戒していたのですが、聴き始めてすぐに納得しました。
アメリカ人でなければ作り得ない、豊かな音楽的背景と社会性に裏打ちされた傑作だったのです。

労働者階級出身として、アメリカの厳しい現実を見据えた上でのポジティヴな歌声と言葉。
いや、そこには間違いなく苛立ちや焦り、哀しみや失望のようなものも入り混じってます。
それでもなお、前向きな力が静かに湧いてくる素晴らしい楽曲の数々。
この「力」は、アルバムを通して聴くことでぜひ実感してもらいたいです。

ロックンロール、ブルーズ、ゴスペル、アイリッシュ、フォーク、カントリーといった、
強くアメリカを印象付ける音楽の坩堝であるのに、普遍的な郷愁を誘う「懐かしさ」に満ちた本作は、
同時に、彼方にそびえる山脈を仰ぎ見るかのような、自然への畏怖もまた感じさせてくれます。

ボーナス・トラックがまた充実していて、見事に本編の「エピローグ」となっています。
歌詞対訳解説を熟読しながら、何度でも向き合いたくなる作品です。



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No.5  夢見る宇宙 (BUCK-TICK)

デビュー25周年を迎えてなお、不動の5人でありつづけるBUCK-TICKの17thです。

実は、B-Tを「歌も演奏もヘタなバンド」と思ったまま、ずっと聴いてませんでした。
初めて聴いたのは小6、最後に聴いたのは中2で、いい印象がまったくなかったのです。

でも、今回は聴こうと思いました。ジャケがクリムトだったから、という理由それだけで。
(なお、通常盤は全然違うデザインで、『金魚』ジャケはDVDつき初回盤のものです。)

いや、それと「デビュー25周年」という節目も気になったのでした。
「メンバー不動のまま25年」というのが、いかに驚異的かつ称賛すべき事態であるのか、
ロックを聴き始めて18年経ったいまとなっては、その凄さが身に沁みてわかるわけです。
そんな尊敬の念もまた、本作を手に取るきっかけとなりました。

聴き始めて驚いたのは、そのサウンドがとても新鮮で、躍動感に満ちていることでした。
これは「状態のいい現役バンド」にしか封じ込めることのできない、まさに「いまの音」なのです。

しかも、キャッチーな歌メロと個性的な歌詞、ソリッドなリフとタイトなアンサンブル、絶妙なアレンジ、
そのすべてが極めてクオリティが高く、「下手くそ」という偏見を抱いていた己を恥じた次第です。

それにしても、よくもまあ25年もやっていて、こんなフレッシュなサウンドを出せるものです。
「枯れない泉」という言葉がありますけど、彼らの創作術、ケミストリーがそれですね。

経歴の長い国内バンドは、アルバムを遡るのが(経済的に)難しいですけど、
B-Tは少しずつでもいいから聴いていこうと思っています。ライブも観たいです。




いちばん気に入っているこの曲のPVを貼っておきます。
アルバム1曲目の"エリーゼのために"もリフがクールな秀曲ですよ。



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No.4  The Story Of Light (Steve Vai)

言わずと知れた「ギターの魔術師」、スティーヴ・ヴァイの8thです。
(彼のディスコグラフィはやや込み入っているので、カウントはウィキに準じました。)
前作『Real Illusions: Reflections』(2005)の続篇で、3部作を予定している連作の第2作です。

「爽やかでスポーツ・ニュースのBGMになりそうな」ギタリストのソロ作という趣きはもはや皆無で、
当代最高の芸術家による、壮大で精神的な一大コンセプト作となっています。

ヴォーカリストとしてのヴァイの歌唱力は初披露となった1996年以降、上昇する一途なのですが、
歌など一蹴してしまう雄弁を極めたギターの表現力たるや、もう言語を絶した領域に達しています。

とくに驚異的なのが"The Moon And I"におけるギターソロで、
これがライブ前のサウンドチェック音源(!!!)だとは到底信じられません…。


音を詰め込みすぎず、「間」を存分に活かしながら奏でられるこのコズミックなソロには、
ヴァイがさらに一段二段と「先」へ行ってしまったことを思い知らされました。

また、これまで避けていた(苦手としていた?)ブルージーなフィーリングも加味されました。
いよいよ、彼は「完全体」に近づきつつあるようです。この凄みを、ライブで実感できたら…。



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No.3  House Of Gold And Bones Part 1 (STONE SOUR)

コリィ・テイラーの驚くべき創作能力がついに完全開花した、STONE SOURの4thです。
「パート1」とあるように本作はコンセプト作の前篇となってます。(後篇はもうじき発売です。)

SLIPKNOT加入以前から、コリィとジムはこのヘヴィ・ロック・バンドで活動していたわけですが、
ここへきてメタル成分が大量に増強され、とくにギターはリフもソロも正統的にして現代的、
「今日の正統派メタル」像を提示したとさえ言えるほど、その内容に説得力がある傑作です。

キャッチーなメロディは曲によって強弱の振幅が激しく、
ストロングなコーラスから憂いを帯びた繊細な歌唱までバラエティに富んでいます。
しかも、「新しい革袋に入れた古い酒」的な類型とは違った、「新しさ」を感じます。

また、コリィ作による悪夢のようなSF的ストーリーもとても面白く、
(ブックレットが充実しているので、対訳のついている国内盤を薦めます。)
ヴォーカリスト、ソングライター、そして作家という綜合的な表現者として、
コリィはこれからさらに巨大な才能を見せつけてくれそうで、頼もしい限りです。



ところで、古株リスナーとしては、ここにロイ・マヨルガのいるのがなんだか落ち着かないのですよね…。
(SOULFLY脱退~出戻り~また脱退、てのが未だに引っ掛かっているのです…。)



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No.2  Clockwork Angels (RUSH)

プログレという枠を超越したロック界の大御所、史上最高のトリオ・バンド、RUSHの19thです。

ニール・パート御大が妻子との死別というこれ以上ない精神的危機を脱してからというもの、
RUSHはその活動において「第二の黄金時代」を迎えているのは間違いなく、
その絶好調ぶりが創作において過不足なく反映されたのが、本作と言えましょう。

前々作『Vapor Trails』(2002)も前作『Snakes And Arrows』(2007)も秀作でしたが、
久々のコンセプト作となった本作は一分の隙もない、しかし息苦しくならない見事な出来栄えで、
彼ら独特の飛翔感と幻想性が現代的なグルーヴとうまいことマッチングし、
スチーム・パンクの世界観をスリリングに、かつ感動的に描いた傑作に仕上がりました。

大ベテランがこんな新鮮な状態を維持しているのは、並み大抵のことではありません。
40年(!!!)の長きに渡って活動しつづけ、まだこのような傑作をものすことができるのですから、
これはもう奇跡というか、畏怖に近い感情すら覚えてしまいます。

未聴の方はぜひとも国内盤を購入して、歌詞・対訳・ニール御大の解説を熟読しつつ、
不思議なアートワークに導かれながら、『時計仕掛けの天使』の世界を彷徨ってほしいものです。

本作はラストの"The Garden"がまた、途轍もなく素晴らしいのですよね…。
以下に、歌詞対訳を一分抜粋します。
ここに辿りついたときの感動は、筆舌に尽くし難いものでした。


「人生の尺度は いくばくかの愛と尊敬
いかに生きるか、人に与える贈り物

未来は記憶の中に消えていく
その間はほんの一瞬
永遠はその一瞬のうちに存在する
あとに残るのは希望だけなのだ」



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No.1  Stand In The World (HEAD PHONES PRESIDENT)

国産ヘヴィ・ロックの雄にして異端児、HEAD PHONES PRESIDENTの3rdです。

ミニ・アルバムなどの音楽的重要性を鑑みると、6thないし7thともカウントできますが、
それぞれ意味があっての作品形態なので、ここはごくふつうに3rdアルバムとすべきでしょう。

わたしが彼らのダイハードなファンだから1位としたのではありません。
純粋に「驚きの大きさ」や「聴いたときの喜び」を絶対値で測ったとしたら、
間違いなく本作が「2012年ベスト1」なのです。
それだけ驚き、そして喜びました。これは会心の傑作ではないか、と。

内から外へ、闇から光へ、ネガティヴからポジティヴへ。

その大きな変化の内実については、わたしなりに歌詞を分析しつつ、すでに書きました
ここでは、当時書きたくても書けなかったことの、そのまた断片をいくつか、晒しておきましょう。
(ところで、わたしのアマゾンのレビューが人気ないので、宜しかったら清き一票を…。)


タイトル曲となった"Stand In The World"からして顕著なのが、
壮大なSF映画の世界に入り込んだかのような、広大な「拡がり」を感じさせる点です。



これまでも、HPPは独自のスケール感を体現してはいたのですが、
それは内向きであるか、もしくは垂直的な「拡がり」といった印象で、
この曲が導いてくれるドーム状のそれとは違いました。

この印象は他の楽曲にも散見されて、とくに"Rainy Stars"において頂点を迎えます。

「SF的質感」は「メタル的」と言い換えることもできそうですが、
案外こうした「拡がり」を感じさせるものは少ないです。

屈強なグルーヴとヘヴィネス、ソリッドかつシャープなリフに固められているのに、
とてもオーガニックで「柔らかい」サウンドになっていることにも注目すべきで、
この「柔らかさ」が本作の「拡がり」に貢献していることは間違いなさそうです。


彼らの能力をもってすれば、「キャッチーでメロディアスな」作品を創ることは造作もないでしょう。

それでも、定型的な表現を注意深く避け、HPPとしての音楽的在り方を深く模索しながらも、
結果的に「キャッチーでメロディアスな」HPPらしい作品を創るに至ったことに、
長年ファンをやってきた者として、得も言われぬ感慨がありました。
文句なしの「2012年ベスト1」です。


さて、2013年もまた、HPPの新作を聴くことができそうです。(夏ごろかな…?)
わたしなりにいくつか予想ないし期待していることもあるのですが、とりあえず今回はここまで。



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うああああ、疲れた。だれか、ご褒美をください(笑)
いや、冗談です。(たぶん)


未聴の作品がありましたら、ぜひとも聴いてほしいです。

次回は、次点となった作品群をご紹介します。


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