2月上旬に急逝したゲイリー・ムーアの遺作が、先日発表された。
去年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァル公演のDVD/ライブ盤である。
Live At Montreux 2010 (2011)
01. Over The Hills And Far Away
02. Thunder Rising
03. Military Man
04. Days Of Heroes
05. Where Are You Now?
06. So Far Away / Empty Rooms
07. Oh Wild Ones
08. Blood Of Emeralds
09. Out In The Fields
10. Still Got The Blues
11. Walking By My Side
12. Johnny Boy
13. Parisienne Walkways
20年もの長きにわたって取り組んできたブルーズ路線(実験的な寄り道もあったが)のため封印されてた、
ハード・ロック時代の曲を中心に組まれたセットリストに、新曲3曲を取り入れた構成となっている。
しかも、80年代に「相棒」としてともに活動していたニール・カーターが参加している、
ということも大きなポイントとなっていて、この時代の彼らに愛着のあるすべてのひとを喜ばせていた。
ゲイリーは、来るべき新作の作風を「ケルティック・ロック」と呼んでいた。
しかし、何年もかけて慎重に書かれていたらしいその楽曲群は、彼の急逝とともに失われてしまった。
3曲だけとはいえ、こうしてライブ音源として聴けることに感謝せねばなるまい。
彼がなぜ、ときには否定さえしていた時代の音楽性に回帰しようと思うに至ったのかはもうわからない。
ブルーズ路線以降のゲイリーは、思いついたことを好き勝手にやっていたような印象がなくもない。
(具体的にはDark Days In Paradise、A Different Beat、Scarsで、いずれも成功したとは言い難い)
突発的なアイディアに拠るのかもしれないし、説得されるうちに腹を括ったのかもしれない。
また、よく言われるように、年齢からくるキャリアの終わりが見えてきてはじめて、
かつての自分に見直すべき何物かを見出し、音楽的な総括をしたくなったのかもしれない。
なんにせよ、遺されたのは3曲のみ。デモすら作らずに逝ってしまったのだ。
そのデモ作り前の最後の休暇中に、心臓発作で突然の死を迎えたのだった。
"Days Of Heroes"はTHIN LIZZYの"Emerald"を髣髴とさせる…と言うよりむしろ、
意図的にほとんど同じリフを採用したのでは、というくらいリフが似ている。
その点、本作にも収録されている"Blood Of Emeralds"の兄弟篇と言えようか。
荒々しいリフにメロディアスなソロが映える、ストレートなハードロックの佳曲だ。
つづく"Where Are You Now?"はバラードタイプのゆったりした曲。
80年代のその手の曲にありそうでなかった類のスケール感があり、
ゲイリーが「ケルティック・ロック」に新機軸を見出していたことを窺わせる。
のびのびと歌われる開放感のなかに、言い知れぬ悲哀と郷愁を感じずにいられない。
なお、「You」と歌われている人物はフィル・ライノットである。
思えば、フィルの死(1986)を受けて制作されたWild Frontier (1987)こそが、
意図された「ケルティック・ロック」の元祖なのだった。
たくさんあるようでいて、After The War (1989)とあわせた「前後篇」二作しか、
「ケルティック・ロック」作はないのだと、改めて思い出しておかねばなるまい。
彼にとって、愛すべき郷土と旧友は不可分なのだろう。
それゆえに、その路線をつづけることができなかったのではないか。
「ケルティック・ロック」とは、死と向き合うことと同義だったのではないだろうか。
"Oh Wild Ones"もまた"Days Of Heroes"同様、強烈にTHIN LIZZYを想起させる曲。
郷里の祝祭が目に浮かんでくるような牧歌的な曲調をハードロック化し、
荒野をさすらう神話的な流れ者を歌う。やはり、THIN LIZZYではないか。
断片からおぼろげに見えてくるのがTHIN LIZZYの姿であることは当然とも言える。
もしかしたら、あの完成されたスタイルの「つづき」を描いてみたかったのかもしれない。
長々と「新曲」について書いてきたから、この作品全体について書こう。
実は、"Over The Hills And Far Away"と"Out In The Fields"では、
原曲を知る者なら(いや、知らなくても)だれでもわかるような大きなミスがあったりするし、
"Thunder Rising"ではサビを歌うニールの声が引っくり返ってしまったりするし、
ゲイリーが歌いながらくすっと笑ってしまうといった場面もあったりする。
昨年の来日時よりも間違いなく太ったゲイリーを目にして(110kgはありそう…)、
心臓発作の原因はこの肥満にあるのではないか、と思ってしまったし、
何人か特定のオーディエンスを何回も映す(とくに後半に多い)編集にイライラさせられる。
しかも、ギターソロとオーディエンスをオーヴァーラップまでするのだ!これには呆れた。
ゲイリーの関係者や近親者であったとしても(それはなさそうだが)許容範囲外である。
「完璧主義者」でもあったゲイリーからすると、不本意な出来かもしれない。
しかし、やはり、当然のことながら、そのギターの素晴らしさには圧倒される。
昨年の来日公演のライブレポでも書いたように、あの大きい手でグッとチョーキングされたら、
レスポールも泣かずにはいられないだろう、という豪快っぷりである。
80年代後半以降の、精密機械の如き技術をもったギタリスト群もわたしは好きだけど、
60年代~70年代(ときに80年代前半も含む)に活動を始めたギタリスト群のギターは、
その心情が音に転化されてダイレクトに伝わってくるようで、聴くたびにこころを動かされる。
一度でもゲイリーのギターに感じるところがあったなら必ず聴いてほしいし、
一度も聴いたことがなくても、いつか手にとってほしい。
彼の旧作はリマスターが半端なので(やってない説すらあり)薦めにくいのだけど、
おそらくこれからは特典付きのレガシー・エディションがリリースされるだろうし、
(それはそれで若者を遠ざけるから、その手の再発はあまり好かないのだけど)
いい音楽を知る/聴くのに急ぐ必要はない。タイミングの見極めは重要だが。
個人的にはCorridors Of Power (1982)と上記「ケルティック・ロック前篇」が好きだ。
先日発売されたTHIN LIZZYのBlack Rose (1979)の再発盤から入るのもいいだろう。
まだ未聴に方には巨大な鉱脈への入り口であり、
慣れ親しんできた者には思い返す縁(よすが)であるのが、本作である。
もっとも、新曲に倣って「あなたはいまどこにいるのか?」と言いたくなってしまうのも事実だ。
しかし、その答えはあまりにも明白ではないか。
彼は戻りたかったところへと戻っていったのだ。故郷へと。
旧友や家族との再会を喜び、今ごろはギターでも弾いているにちがいない。
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ああ、そういえばこの方も亡くなってましたね・・・。
返信削除生きてて当然と思ってしまうバカ者です。
そういえばCreamのメンバーと何かやってましたよね?
あれ、好きでした・・・というか、どストライクでした。(年バレるなぁ/笑)
聞き込んでませんでしたが、ちゃんと聞こうかなと思います。
>kanaさん
返信削除去年以降、やたらと訃報がつづいてます…。
おお、BBM! 『白日夢』ですね。
聴いたの15年前なんで、もうほとんど忘れてます(笑)
ゲイリーはどれもいいです、結局のところ。
もう「新作」はないから、ゆっくりと探究することにします…。