2012-01-30

HPP's 3 New Songs

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HEAD PHONES PRESIDENT(以下HPP)の2012年初ライブを観に、名古屋に行ってきた。


HPPについては、これまで何度も何度もライブレポを書いてきた。
ネタ切れというわけではないけど、今回はレポ的なものではなく、
来るべき新作への思いとともに、3つの新曲について書いておきたい。

が、その前に1月27日のセットリストとメモくらいはあげておこう。


HEAD PHONES PRESIDENT
at Apollo Theater on 27th Jan 2012


SET LIST
01. Nowhere
02. Desecrate
03. Labyrinth
04. Light to Die
05. (new song 2)
06. (new song 3)
07. (new song 1)
08. ill-treat
09. Endless Line
10. Sixoneight
Encore
11. Chain


実は、終演後にセットリストを見せてもらったのだけど、新曲3だけはタイトルがあった。
ただ、まだ仮タイトルかもしれないので公表はしないことにした。

あと、セットリストには毎回"I'll-treat"とあって、illではないのかと首をひねるのだけど、
3rd DVDのDELIRIUM のチャプターでもI'llとなっていたので、もしかしてこれが正式?
と混乱するのだったが、それはいまのところどうでもいい。以下、短くメモを。


これは12月の仙台公演やMarz公演でも同様だったのだけど、「Anza語」に日本語が加わったのだ。
要するに、「何を言っているのかはっきりわかる言葉」をステージ上で発するようになったのである。
いや、2005年まではそうしていたのではなかったか。むかし、観た覚えがかすかにある…。

特筆しておくべきは"Endless Line"だろう。かなり様変わりしていた。
漸進的な変化はすでに経ていたのだが、今回は明確な違いがあった。
オリジナルよりも繊細な表現が強調され、前半は別の曲のようだった。

また、ライブにおいては曲間にセッション的な演奏がなされるのが常であるとはいえ、
新作のレコーディング中ということもあってか、聴き慣れないフレーズが出るたびに、
すわ「未知の新曲か?」とこころがはやったことをも、ここに残しておこう。

Hiroさんの、静けさの中で微細に音が震えるタッピングがわたしはとても好きなのだけど、
これは新曲のイントロではないのか、と緊張しながらその短いセッションに見入ったのだった。


それと、新作がリリースされると、おそらくこのセットリストも激変するだろうなと、
一抹の寂しさと、それに大きく勝る期待とが入り混じった思いをもって観てもいた。

"Labyrinth"はここ4年ほどセットリストから外れていないはずなのだが、
LOUD PARK 08以降は冒頭にHiroさんのソロがついたヴァージョンとなり、
驚くべきことにそのまま3年以上経って、今日に至っているのである。

HPPにとって転換点となった曲のひとつであろう"Labyrinth"も、
そろそろお役御免となるかもしれないと、ふとそう思ったのだ。

"I will Stay"がセットリストのラストから外れたとき、HPPの意志/意思を感じた。
それと同じことが、近いうちにふたたびあるだろう、そう予感したわけだ。

こうした「定番」の組み替えは、長年同じバンドを観つづけているひとはわかるだろうけど、
バンドが新たな領域に突入していったという喜びと、新セットの新鮮さを得ると同時に、
いまや過去形となったセットに曰く言い難い哀惜の念を覚えるものだ。


そんなふうにして、ライブ中は未来の哀しみと喜びを先取りしていたのだったが、
メモはこれくらいにしておいて、現時点で判明している新曲について書いてみよう。



すでに書いてあることだが、新曲の登場順に1、2、3と便宜的に名付けている。

1は2010年12月17日(金)の水戸公演が初演。DELIRIUMで見ることができる。
2は2011年7月18日(月祝)の名古屋公演が、3は2011年8月20日(日)の大阪公演が初演。


新作のレコーディングは前後半に分けて進めていることがブログなどから窺える。
Anzaさん曰く「音がもの凄くエグイ」とのことだが、この3曲は正にそんな音だ。

メタルの音作りは、切れ味の鋭い刃や地を轟かす重戦車や岩石を砕く重機など、
まさに「メタル」な鋼鉄関係の言葉やイメージに喩えられることがとても多いし、
古典的なハードロックや、メタルとは一味もふた味も違うヘヴィロックなどは、
「ロック」の名の通り岩石などの自然物(風水火土のエレメントでもいい)や、
鋭利なメタルとは対極の「鈍器」のイメージなどが用いられることが多い。


今回のHPPの「エグイ」音作りは、いずれにも当て嵌まり、かつ当て嵌まらない。

リフの切れ味は鋭いけど、その音にはずっしりとした量感がある。
重機が巌を砕くようにも、岩石が重戦車を潰すようにも喩えられそうだ。

音自体は「粗い」粒子が目に見えるようなささくれかたをしているのだけど、
メタルにおける「軍隊を思わせる規律ないし秩序」的な終始反復されるリフと違って、
より隙間のある(その点、ヘヴィロック的な)リフという(微小にして極大の)差異のため、
精錬された「メタル=鋼鉄」よりは、その原石である鉱物や「ロック=岩石」に喩えたくなる。

ゴツゴツザラザラとした巌の表面を、針金の束で撫でているような音とでも言うか。
その太く重い音の束が、垂直ではなくやや傾いで壁のようにそそり立っているのだ。

Hiroさんは、パワーコードではなくちゃんとコードを押さえて弾いていることが多く、
そのため鳴らされる音が増え、ああした重厚な音の響きを獲得できているのだろう。
(カンのいいひとはVOIVODを思うかもしれない。確かに「音」は近いものがある。)


そんな「エグイ」音作りだが、新作の全編にわたって「そう」だとは思わない。
おそらく、セッション的な音空間で聴かれたような美しい音像もあるはずだ。


では、曲はどうだろう。何が変わり、何が継承され、どこへ向かっているのか。

3曲だけでは判断材料に乏しいが、「順当な発展的進化/深化」というよりは、
むしろ「暴力的な先祖返り」とでも言えそうな荒々しさ/原始性を感じている。

それと同時に、これはPobl Lliw (2010)に収録された"Reset"にも感じたことなのだけど、
近未来的なヴィジョン/イメージとでも言うか、スケール感の拡がりもまた感じていて、
上述した原始性との相反する印象を持ってしまうところが、HPPらしいと思っている。


その"Reset"に近いのは、一応、明るさを湛えてはいる新曲1だろう。
一応、というのは、どこか不穏な影が脳裏を霞めていくからである。

リフ自体は80年代的とさえ言えそうなほど明るいのに、歴然とした違いがある。
ソロもかなりトリッキーで、どうしたらあんなフレーズが出てくるのだろうと訝しく思う。


Hiroさんは、9月のソロ公演で示して見せたように、いくらでもメロディが書けるひとだ。
それなのに、HPPではそのメロディ・センスをほとんど封殺し、奇妙で狂ったソロを弾く。

もちろん、そこにはHiroさんだけでなくメンバーの方々のジャッジもあるのだろうが、
それにしたって、あそこまで調性から外れたソロばかり弾くひとも珍しいではないか。

試しにProdigium (2009)収録の"Cloudy Face"におけるソロを聴いてみるといい。
わたしたちが慣れ親しんでいる音階から遠く離れた、実にクレイジーなソロだ。
(ホールトーン・スケールだと、どこかの音楽誌で言っていた覚えがある。)


しかし、新曲のソロはさらに狂っている。名古屋公演ではさらにソロが増えていた。
新曲2で、とてつもない速度のフィルイン的なソロが2回ほど挟まれていたのだけど、
あまりの速さと「わけわからない」音の並びに度肝を抜かれて笑ってしまったほどだ。


少し話がズレるが、前回の投票日記で書いたように、今年はDEAD ENDも新作を出す。

このDEAD ENDのYou(足立祐二)さんの、シングル三部作におけるソロが凄まじい出来で、
来年はギタリストの座はYouさんになってしまうかもしれないな、と思っていたのだが、
さすがにHiroさんも別次元のソロを構築してきたぞ、と感嘆し興奮した次第である。

美しさ/流麗さ/滑らかさにおいてYouさんを超えるギタリストは世界的に見ても少ない。
もしくは、いない。それだけのレベルに達したことを、Youさんはギターだけで告げている。
その上、極めてトリッキーなソロにもなっているのだから恐ろしく、新作が待ち遠しい。

一方のHiroさんも、トリッキーでクレイジーであることにかけてはやはりトップクラスだ。
マティアス・エクルンドのようなファニーなそれではなく(そこがマティアスの美点だが)、
シリアスでヘヴィで哀しいHPPの捩れた世界観に沿い、かつそれを増幅するようなギター、
それを追い求めた結果がああした「メロディアスではない」ソロなのだろうと思っている。
(そして、いずれ「メロディアス」なソロが出てくるだろうと予想/期待している。)


さて、その新曲2は、観るたびに少しずつ変化のあった曲だ。

これまた重厚な「エグイ」音のリフと、哀しみが空に満ちてくるかの如きサビが印象的だ。
上述したようにソロも増強され、HPPならではの「美しいヘヴィロック」となっている。


新曲3も徐々に変わってきたが、初めて観たときの「気味が悪い」感触に変わりはない。
また、あの「気持ち悪さ」をなかなか言語化できないままで、どうにも説明しにくい。

Anzaさんによる「Anza語」に起因する言語認知的な違和感に拠るところも大きいし、
痙攣的なステージングを観ていることから「気持ち悪さ」が増幅されてもいるのだが、
曲の構成/進行がそもそもおかしい/わけわからないものであるのが最大の特質だろう。

前回のMarzでのライブではNarumiさんによるドローン調のベースから始まって(?)いたけど、
今回はふつうにリフからのスタートに戻っていた。音源ではどうなっているのだろうか。


ここまで、ギターのことばかり書いてきたようだけど、
最近のライブではNarumiさんとBatchさんのプレイを観ていることが多い。
ただ、ベースやドラムについて書くことはなかなか難しく、課題となったままである。



あっちに行ったりこっちに来たりと、ふらふら落ち着きのない文章になってしまい申し訳ない。
このままでは締まりがあまりになさすぎるので、少し新作への期待を綴って終わりにしよう。


HPPは、毎回こちらの予想も期待も上回るものを作り上げてきたから、新作の出来に不安はない。

名古屋公演のあと、少しだけメンバーの方々とお話する機会があったのだけど、
Anzaさんは「150%自信がある」とまで言い切っていたのだから、尚更である。


最近、Crap Head (2001)やid (2002)など初期作を聴くことが多いのは、
ああいったヘヴィロック的感触を新曲に得ていることによる。

そうしてHPPの作品を振り返ると、1stのVary (2003)が浮いて見えるのはわたしだけだろうか。
いや、それなら2ndのfolie a deux (2007)もその他の作品とは何か違いはしないか。
それならば、3rdとなる新作も「何か違う」ものになるのではないか。
そんな風に思いながら、新作を待ち侘びている。


もちろん、アルバムタイトルやアートワーク、まだ見ぬ曲名などもとても気になっている。
それらは、決して適当なものであってはいけない。その重要さは中身と拮抗し得るほどだ。

というのも、まずはタイトルやアートワークなどが「アイコン」として機能するのであって、
それが示すものが豊かだったり鮮烈だったり謎めいていたりすることによって、
その作品へのイメージ(ときに偏見)が脳裏に懐胎するからである。

似たような曲名や、長くて覚えにくい曲名が多い、というのはマイナスだし、
作品の文字通り「顔」となるアートワークがダメでは目も当てられない。

まあ、これまた心配など一切していないので、単に楽しみにしているだけなのだが。



やはり、どうにも締まりが悪いものとなってしまった。

今回はこの程度の戯言で我慢しておき、退散するとしよう。


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2 件のコメント:

  1. 新作への期待が高まるばかりの中、新曲レポ(?)ありがとうございます!

    HPPを知り合いに薦める際「なんと表現したら伝わる」のか言葉を探します。
    そんな時、いつもMoonさんの言葉をお借りしています。
    そのくらいイメージし易い表現をしてくださいますね。

    Anzaさんの150%宣言も期待を煽りまくってますし、ワクワク(この表現でいいのだろうか)しながら待ってます!

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  2. >kanaさん

    せっかくの返信機能もこのデザインだとなぜか使えないようなので、いつものやり方で…。

    いや~、今回はほとんど印象を言葉にすることができなくて、不本意な点も多々あります…。
    ただ、あの「エグイ」音はかなり強烈ですよ。空間が軋むような音です。

    Anzaさんは自信を持って言ってくれましたから、ただ信じて待つのみです。

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