2014-08-20

レコードによせて



以下の文章は、2010年8月20日21時半にMySpaceに投稿されたものの再掲である。

前ブログに引きつづいて書かれたこのブログは、書いた当人にとっても予定外の副産物だった。
いや、前半は予定通りだったはずだ。後半、話は変わっていった。それを止める気にはならなかった。
何か、思うところがあったのだろう。それでも、性急にならないよう、気をつけて書かれてはいる。
改行その他、表記以外は文章に手を入れていない。当時のままだ。

これを書いた当時は29だった、というのが、わたしを妙に不安にさせる。


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前回のロバータのレコードは、父のものである。
20年近く前の引っ越しでほとんど捨ててしまったが、
20枚くらい、捨てるに忍びなかった「生き残り」の一枚。
すでにプレイヤーは壊れていて、聴けないというのに。

山積みにされたレコードの山がふたつ、いやみっつはあったろうか。
たぶん、100枚~150枚、といったところだったのだろう。
とくに熱心な音楽ファンというわけでもなかったようだけど、
それにしてはそこそこの枚数だったと思う。
あの世代としては、普通なのかもしれないが。


部屋にはTHE BEATLES『Let It Be』のアルバムカバーのポスターが貼ってあり、
幼いわたしが恐がって泣くため、ポール、ジョン、リンゴの順で切り取られ、
最後に残ったジョージもいつしかはがされていたのだった。
恐かったのは、虚ろな目をしたジョン・レノンだけだったのだけど。
その後、別のポスターが貼られた。レノンだった。それは恐くなかった。
いや、この順番は逆かもしれない。しかし、それはどうでもいいことだ。


残されたレコードは、大体こんなラインナップだ。

THE BEATLESの『サージェント・ペパー~』と『アビー・ロード』、
レノンの『ジョンの魂』と『ヌートピア宣言』、ジョージの『33』、
デヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』と『ヤング・アメリカン』、
エリック・クラプトンの『ノー・リーズン』、
CACTUSの『Son Of Cactus』、
BLOOD, SWEAT & TEARSの1st、
WEST, BRUCE & LAINGの1st、
キャロル・キングの『ミュージック』、
前述のロバータ、
スティーヴィー・ワンダーの『ファースト・フィナーレ』、
『ゴッド・ファーザー』のサントラ、
コンピレーション盤、などなど。
ほとんどが70年代前半の作品で、その頃の父は10代後半~20代前半だった。

ブリティッシュ・ロック、アメリカン・ロック、ポップス、R&B、サントラ、と雑多。
でも、これが70年代の聴きかただったのだし、このほうが健全だと思う。

明らかにいちばん痛んでいるのが、ボウイのジギー・スターダストだ。この辺り、血は争えない。
ロック史上最高の一枚を3枚選べ、と言われたら、わたしは真っ先にジギーを挙げるだろうから。
そうゆうことだ。


コンピレーション盤がちょっとおもしろいので、紹介しよう。
テイチクのUnion Record、というレーベル(?)から出ていたもの。1973年リリースらしい。
『greatest hit POPS complete album』、邦題を『グレイテスト・ヒット・ポップス大全集』という。



ジャケやインナーの女性が誰だか、不明。モノクロのインナーは、明らかに60年代テイストである。

曲目も、メモしてきた。カッコ内は邦題。
その方が感じが出る気がしたので、アーティストはカナ表記としてみた。

Disc-1

Side-A
1. The Music Played(夕映えのふたり) ウド・ユルゲンス
2. My World ビージーズ
3. Black Dog レッド・ツェッペリン
4. Morning Has Broken(雨にぬれた朝) キャット・スティーブンス
5. La Vie, La Vie(美しき世界) ミッシェル・デルペッシュ
6. American Pie ドン・マクリーン
7. I'd Like To Teach The World To Sing(愛するハーモニー) ニュー・シーカーズ

Side-B
1. An Old Fashioned Love Song スリー・ドッグ・ナイト
2. Theme From SHAFT(「黒いジャガー」のテーマ) アイザック・ヘイズ作曲
3. Brand New Key(心の扉を開けよう) メラニー・サフカ
4. Love ザ・レターメン
5. She's My Kind Of Girl(木枯らしの少女) ヨルンとベニー
6. Questions 67/68 シカゴ
7. Mamy Blue ユベール・ジロー作曲 ポップス・トップス

Disc-2

Side-A
1. Diamonds Are Forever(ダイアモンドは永遠に) シャーリー・バッシー ジョン・バリー作曲
2. Gypsys, Jramps & Jhieves(悲しきジプシー) シェール
3. Pour Un Fl(青春に乾杯) ミッシェル・デルピッシュ
4. Imagine ジョン・レノン
5. Everybody's Everything(新しき世界) サンタナ
6. Sweet Caroline ニール・ダイアモンド
7. Superstar カーペンターズ

Side-B
1. Sunrise, Sunset(「屋根の上のバイオリン弾き」より) ジェリー・ボック作曲
2. Till(愛の誓い) トム・ジョーンズ(トニー・ベネット←ジョルジュ・ビラー&ピエール・ブイソン)
3. Un Tour L'Amour(ただ愛に生きるだけ) マルティーヌ・クレマンソー アンドレ・ポップ作曲
4. America, America カーチャ・エプシュタイン ジョルジオ・モロダー作曲
5. I'll Follow The Sun(夜明けの太陽) ショッキング・ブルー
6. Tour, Tour Pour Ma Cherie(シェリーに口づけ) ミッシェル・ポルナレフ
7. Music Play(別れの朝) ウド・ユルゲンス

始まりと終わりに様式美を感じずにはいられない。


やはり、なんでもありの様相を呈していて、おもしろい。
それでいて、ジャンルの壁を感じさせない共通分母があるようにも思う。
60年代の残滓ではあるのだけど、ヒューマニスティックなあたたかさや、
パーソナル(個人的)であると同時に、ユニバーサル(普遍的)な表現など。

音楽産業が巨大化する前の大らかさ、いや、もっと言ってしまえば、
「音楽を聴く楽しさ」という、当たり前のことをこのアルバムに教えられた気がした。
一方で、あまりにもつまらない聴きかたをしているのでは、という危惧をも感じた。

あらかじめ奪われたノスタルジーではあるが、もうこの地点に戻ることはないのだ、
という乾いた諦念を追いやるような、豊かな音楽シーンはもう望めないのだろう。
なんと、あっという間に遠いところまで来てしまったのだろう・・・。


ビジネス、ファッション、アクセサリー、帰属カテゴリ、コミュニケーション・ツールとしての、音楽。

それは、必然ではあっただろう。残念でもある。もちろん、喜びもあるのだろうが。
そして、そんな現在を懐かしむ時代もまた、いずれ来るだろう。さらに世界は解体されるだろう。




ところで、父が今のわたしと同じ年だったとき、わたしはこんなもんだった。



いま、わたしには妻もいなければ、こんな小さなこどももいない。
当然だ。それを「当然」とするような、生きかたをしてきたのだから。

すっかりボケてしまった祖母も、当時まだ50代半ば、いまの両親より若い。

その頃は、子育てで忙しくてほとんど何も聴かず、見ず、だったらしい。
(それでも、THE POLICEの"Every Breath You Take"といったヒット曲は好きだったようだが)

いま、子育てをしている小中高といっしょだった旧友も、そうらしい。
たまにCDを聴いても、娘にストップボタンを押されるのだとか。

その友人の娘は、わたしの28回目の誕生日に生まれた。
父が27歳を迎えた十日後に、わたしは生まれた。

わたしは27歳を迎えたとき、20歳年下のこどもらに「お父さん/お母さんよりわかーい!」と言われた。

いま、その子たちは4年生の夏休みを過ごしている。
わたしは、自分の4年生の夏休みをよく覚えている。


20年経ったが、そのうち半分は捨てたも同然と思わなくもない。

20年前に、父はレコードを選び、大半を捨てた。
聴けもしないのに、少しだけ手元に残して。


そんなことばかり、最近は考えている。

そんなこと、とは?

それは、ひとが生きた時間。ひとが生きる時間。歴史。生活。記憶。忘却。夢。



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このブログを投稿してから、ちょうど4年が過ぎた。

ここで4年生と書かれていたこどもたちは、もう中学2年生になった。
わたしが中2だったときから、20年の月日が流れたわけだ。

すっかりボケてしまった、と書いた祖母は、もういない。2013年1月27日に亡くなった。
とても綺麗な顔をしていたことを、いまは思い出す。


この4年間を振り返ると、ようやく生きつないだ4年間であったと思う。
生かしてくれたすべてのひと、もの、ことには、感謝の念しかない。

一方で、恐れてもいる。この困難な4年半を乗り越えさせてくれたすべてとの、別れを。

そんなことばかり、最近は考えている。


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