前回に引きつづき、「30年30枚」です。というかこっちが本番ですね。HM/HR編!
わたしが「意識的に」音楽を聴くようになって、もう20年経ちます。つまり、「TVでやっているヒット曲がたくさん入っているアルバムを買う」時代が終わり、自ら手探りで未知の音楽(洋楽)を求めるようになったのが、1994年だったわけです。
入口はBON JOVIのベスト盤『Cross Road』でした。あとはCDショップで試聴したり、雑誌を立ち読みしたり、友だちと情報交換をしたり、映画やCMの曲を探したり。そして、NIRVANAの『Nevermind』とVAN HALENの『Balance』が契機となってハードロック方面に舵をきり、HELLOWEENの『Master Of The Rings』で初めてヘヴィメタルを聴いたのが決め手となって、今日に至るというわけです。(なお、この「原初の4枚」は選から外してあります。評価云々や思い入れ以前に、まさにわたしの「基礎」となっているので…)
正直なところ、年々「もうメタルは聴かなくてもいいかな」と思うことが多くなりましたが、こうして今回いろいろと振り返ってみて、自分がどれだけこのジャンルの音楽に救われてきたのか、思い知らされました。
前回も書いたように、好きなアルバムをメモっただけで30枚どころか300枚もありました。そのうち、HM/HRは220枚くらい。実に7割以上がメタル。ここから30枚に絞るなんて、とてもじゃないけどできない!と一度は放棄したのですけど、次から次へと友人知人のみなさんが30枚を選んでいくではないですか。
tokuさん、Koutaさん(THOUSAND EYES)、DEATHさん、takasaアニキは洋楽編と邦楽編ふたつ(後日、ブログに引っ越し→洋楽編・邦楽編)、レイニーさん、Georgeさん(JURASSIC JADE)、Ko1さん、KKさんと、みなさんとても興味深い選出。
あらためて思わされたのが、「好き」はひとそれぞれだという、あまりにも当たり前なこと。そして、「好き」とは対象とその人との「幸福な関係」に他ならないのだということ。それを30枚という枠内にまで凝縮するのですから、内容は自然と「濃い」ものに、つまりはその人が見えてくるものとなります。それが面白いのですね。
わたし自身、作品を選びながら、まるで自分のアタマのなかを整備しているような感覚に陥ることが何度もありました。歴史的名盤、嗜好を決めた分岐点的作品、記憶と不可分な作品などがそれぞれ重なったり離れたり。これは「いい」アルバムなのか、それとも「好きだけど本当はそこそこ」なアルバムなのか…?といった自問自答も、聴き返せば「やはり素晴らしい…」という感嘆しか出てこなくて、選びきれないままその曲に浸っている、といった具合。
これでは本当に選べないと思ったので、こうすることにしました。
①「BURRN!誌で選ばれた作品はすべて外す!」(1枚例外を認める)
②「友人知人の選んだ作品も極力外す!」(5枚くらいは許す)
これです。この制限を課したからこそ、なんとか選びきることができました。
たとえば、これでJUDAS PRIEST、IRON MAIDEN、METALLICA、GUNS N' ROSES、DIR EN GREY、MR.BIG、FAIR WARNING、DOKKEN、TNT、ALICE IN CHAINS、PANTERA、IN FLAMES、CARCASS、CONVERGE、NEUROSIS、AT THE GATES、OVERKILL、EXTREME、BAD HABIT、KAMELOT、TERRA NOVA、DIZZY MIZZ LIZZYなどが消えました。彼らの他のアルバムを選ぶこともできたけど、それよりは他のバンドを選んだ方がよかろう、と。
あと、③CDを持っていないものも外しました。借りてきてカセットやMDに入っているものでは、AEROSMITHやBON JOVIやVAN HALENやWHITESNAKEやトニー・マーティン時代のBLACK SABBATHなど、1994~1997年に聴いていたものに多いです。とくにマーティン・サバスは入れたかったけど、仕方ありません。(リマスター再発はまだですか、アイオミ先生…)
さらに、RUSHやASIAやMOTÖRHEADやTROUBLEなど、④「まだ聴いていない名盤」があるバンドも外しました。また、⑤ヴォーカルやギタリストが複数のアルバムにまたがらないようにもしました。それと、前回もそうでしたけど、「これを知ってほしい」「これをもう一度聴いてほしい」という作品を入れるようにもしました。
そんな感じで枠を狭くしたにもかかわらず、やっぱり悩みに悩みました。
以下の30枚は、「マイベストHM/HR、100分の30本日版」みたいなもんです。
まあ、選んだみなさんも同じ思いでしょうね。それでは、どうぞご覧ください。年代順です。
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MEGADETH
Killing Is My Business... And Business Is Good! (1985)
インテレクチュアル・スラッシュを標榜してデビューしたMEGADETHの1st。たいていは2nd『Peace Sells... But Who's Buying?』(1986)か4th『Rust In Peace』(1990)を選ぶだろう。あと5th『Countdown To Extinction』(1992)とか。わたしだってそうしようとしたが、そこは先人に譲り、1stにした。(ちなみに、『So Far』『Youthanasia』『Risk』も大好き) 初めて聴いたとき、リフの切っ先の鋭さと、リフの数の多さに度肝を抜かれた。とにかくリフ、リフ、リフの嵐。そこにデイヴ・ムステインの、荒々しいヴォーカルがのる。徹頭徹尾「メタル」な音像なのに、どこかパンクの(ひいてはロックンロールの)感触を留めているところはNWOBHMの一群や、他のスラッシュ・メタルのオリジネイターたちと同様。ただし、いちばんテクニカルでアタマのおかしいのが、ムステインなのだった。アイディアの量と凝縮度が異常である。たった30分程度の作品とは、とても思えない密度なのだ。インテレクチュアルと自称しておきながらも知的に統御している印象はなく、むしろ衝動を煮詰めて解放したといった感触が強い。それだけMETALLICAへの対抗意識が強かったのだろう。にもかかわらず、どこか冷たく、醒めている。そこが途轍もなくかっこいい。(ただ、再発盤に収録されている"These Boots"のピー音はどうにかしてほしい…)
ZENO
Zeno (1986)
ウリ・ジョン・ロートの実弟、ジーノ・ロート率いるZENOの1st。メロディアス・ハードの頂点のひとつ。オリエンタルなメロディを積極的に導入しているところは兄譲りか、それとも家風か。(ロート兄弟の父は国際的なジャーナリストだった) このアルバムに限らず、ジーノが作る音楽はとても情熱的で美しく、歌詞において氾濫しているように「愛」に満ちている。兄ともども、ジーノが希求しているのは形而上学的な「平安」であるように思われる。現実におけるそれではなく、もっと本源的な在り方としての安寧を探究した結果、兄は宇宙へ、弟は地平線へと向かったというのがわたしの見立てで、その動因にして目的が「愛」なのだろう。雄大なスケール感を内包した楽曲群が、情景描写であると同時に感情表現でもあるところにこの兄弟の真骨頂がある。自分と自然を同化させること、それは天使の所業でもあるだろう。それにしても、これほどまでに「愛」を歌い/謳いながら、どうしてこんなにも切なさに覆われているのか。とくに本作においては、言い知れぬ詩的な寂寥感がそこかしこで顔を出す。そこに惹かれるのだ。その点、マイケル・フレクシグの清らかな歌声はまさにぴったりだった。ギターをより全面に出した同路線の2nd『Listen To The Light』(1998)、ヴォーカルがマイケル・ボーマンに代わってより正統派ハードロックに近づいた3rd『Runway To The Gods』(2006)でもよかった。ふたつの未発表曲集も素晴らしい。とくに、"Love Will Live"のExtended Versionは必聴。
QUEENSRŸCHE
Empire (1990)
シアトルの個性派、QUEENSRŸCHEの4th。3rd『Operation: Mindcrime』(1988)が古今無双の傑作であるため、他の作品が霞んでしまっているのが残念だ。クリス・デガーモ在籍時の作品はすべて傑作ないし秀作だというのに。(6th『Hear In The Now Frontier』はあまりに誤解された秀作だった) 本作は、「都会的な洗練」をHM/HRに施すという、空前絶後の試みに成功した唯一の作品と言えよう。いや、意識的に試みたのか、結果的にそうなったのかは、わからない。しかし、他に類似する作品は(少なくともHM/HRのフィールドには)見当たらない。やわらかく美しいメロディが全編に満ちている一方で、どこかピンと張り詰めた緊張感が持続している。煌びやかなサウンドなのだけど、80年代的なケバケバしさは皆無。それどころか、凛とした音像にこちらの身が引き締まるかのようだ。歌唱、リフ、ギターソロ、ベース、ドラムのすべてが完璧かつ個性的で、歌詞の完成度も高い。これはひとつの極点に違いないのだが、「何の」極点なのか未だにわからないという孤峰なのだ。なお、近未来的なイメージを照射する正統にして異端なメタルの2nd『Rage For Order』(1986)、PINK FLOYDを思わせるナチュラルな音像の5th『Promised Land』(1994)も傑作。(クリス脱退後も作品自体は面白いものが多い。ただ、メロディの質は格段に下がってしまった)
BLIND GUARDIAN
Somewhere Far Beyond (1992)
ドイツの守護神、BLIND GUARDIANの4th。もっとも聴いたメタル・アルバムのひとつ。タイトル曲はあまりに聴きすぎたため、いまでも歌詞をすべて覚えているし、高校1年生の美術の時間にこの歌詞を引用した版画を作成したほどハマっていた。「ハイ・ファンタジーの世界をメロディアスでシンフォニックなパワー・メタルで描く」という手法は、間違いなく彼らが完成させたものだろう。いや、他にも先駆者はいたのだけど、アルバムとして提示される世界観の徹底度が違う。軸となる勇壮なメロディ、歌詞世界を表現するための楽曲展開、その内容を豊かにするアレンジはもちろんのこと、メタルならではの荒々しいアグレッションがそこかしこで噴出するのがまた素晴らしい。3rdから6thまでの、90年代の作品はどれも同系統の傑作だけど、わたしはやっぱり思い入れの強い本作がいちばん好きだ。21世紀に入ってからの作品はこの頃ほどの烈しい「熱」がないけど、その分、曲作りの緻密さを磨いている。また、脱退した初代ドラマー、トーメン・スタッシュが結成したSAVAGE CIRCUSの『Dreamland Manor』(2005)は、まさにこの時代の音楽性を継承している。
HAREM SCAREM
Mood Swings (1993)
カナダの技巧派集団、HAREM SCAREMの2nd。これだけは他のだれが選ぼうと外せない。わたしがもっとも聴いたアルバムは、間違いなく本作。何千回聴いたかわからない。美しいメロディ、重厚なハーモニー、テクニカルでヘヴィなリフ、センス溢れる個性的なギターソロ、そのすべてを記憶してもなお未だに聴きつづけているし、それはこの先も変わらないだろう。メロディアス・ハード永遠の名盤である。ただ、「彼らの傑作はこれだけ」みたいな言説には釘を刺しておかねばならない。馬鹿言うな、と。わたしに言わせれば、『Overload』と『Hope』以外はすべて傑作である。傑作が言いすぎだとしても、佳作秀作であることは間違いない。これは改名していたRUBBER時代(1999年~2001年)も含めて、である。「ダークになった」問題作とされつづけている3rd『Voice Of Reason』(1995)なんて、ピート・レスペランス最高のソロが聴けるではないか。1998年~2001年の作品はいずれもハード・ポップの隠れた名盤だし、名前を戻してからの『Weight Of The World』(2002)、『Higher』(2003)、『Human Nature』(2006)はメロディアス・ハードの最高峰。ストレートな1st『Harem Scarem』(1991)、ヒネリのきいた4th『Believe』(1997)も傑作。「本作だけ傑作」では断じてないのだ。タイプの異なる優れた作品ばかりを残した彼らは、器用すぎたのだろう。いまは、年末に発表されるらしい新作『Thirteen』を心待ちにしたい。
KYUSS
Welcome To Sky Valley (1994)
米国産ストーナー・ロック、デザート・ロックの祖、KYUSSの3rd。実際に砂漠でライブをやっていたというのだから恐れ入る。90年代末から2000年あたりにかけてストーナーの一時的な流行があったけど、そのころに知った。現QUEENS OF THE STONE AGEのジョシュ・オムが在籍していたことでも知られている。(なお、QOTSAはその流行から抜け出てメジャーな成功を収めた、唯一のバンド。ストーナーについては、ここで少し書いている) 3つの楽曲(楽章)のそれぞれに、3曲4曲を詰め込むという変わった構成になっていて、いずれも15分~18分くらいある。この手の音楽性はトリップ感が愛でられるため、浮遊感や曖昧性が尊ばれる傾向にあるけど、本作はそうした傾向を押さえつつキャッチーであるという離れ技を成功させた。しかも、砂漠の暑さに白む意識までをも活写したかのような迫真性と、そんな人間を高所から(まるで禿鷹のように)俯瞰する超越性が、言うなれば「聖性」までもが顕現しかけているのだから凄い。ジョン・ガルシアの乾いた声が、人影の見当たらない荒涼たる灼熱の砂漠に響く。どの作品もいいし、解散後のメンバーがやっているどのバンドもよい。とくに、昨年リリースのVISTA CHINO『Peace』は「ほぼKYUSS」で愛聴している。
SLAYER
Divine Intervention (1994)
帝王SLAYERの6th。3rd『Reign In Blood』(1986)が、バンドを超えてスラッシュ・メタルというサブジャンル、ひいてはヘヴィメタルというジャンルの最高傑作のひとつであることは、言うまでもない。が、①②の「縛り」もあることだし、他に1枚と言われたらわたしの場合これなのだ。というのも、初めて聴いたSLAYERが本作だったのである。それはもう、尋常ならざる衝撃だった。1曲目、歌が入った時点で「あ、失敗したかな…」と思うも、加速していく中盤の熱狂にのみ込まれてからはもう、興奮して夢中だった。何曲か、あまりに速くて思わず笑ってしまった。また、犯罪者の異常心理を歌った歌詞にも驚かされた。「いつも同じだけど、いつもどこか違う」のがSLAYERの特質にして美点なのだけど、本作の場合はもっとも冷徹なイメージをわたしは抱いていて("213"のインパクトが強すぎたのかも)、変質的殺人者の青ざめた無表情が脳裏に浮かんでくる。それはさておき、リフも強力なものばかりだ。あまり言及される機会のない作品だけど、完成度はとても高い。ちなみに、1998年リリースの次作『Diabolus In Musica』も大好きである。
TALISMAN
Humanimal (1994)
マルセル・ヤコブがジェフ・スコット・ソートと結成したスウェーデン産メロディアス・ハード/北欧メタルの雄、TALISMANの3rd。歌メロとグルーヴは水と油、両立できない場合がほとんどで、たいていは90年代米国産ヘヴィ・ロック勢のような、陰鬱でささくれたメロディに行きつく。しかし、彼らは違った。アメリカ人であるジェフの野性的でダイナミックな歌唱と、スウェーデン人であるマルセル作の透明感溢れる美しいメロディが共振し、それをマルセルの超グルーヴィなベースがつないだ。驚異的と言っていいほどメロディとグルーヴのバランスがとれた音楽性はしかし、登場が早すぎたのかもしれない。日本盤と海外盤で内容を差し替えた連作としてリリースされるという混乱が、当時の無理解を物語る。そのため、以後はグルーヴを控え目にした作風にシフトしていくことになる。(それもまた素晴らしいのだけど。なお、これより以前の、より正統的な作風もよい) だが、ここでも書いたように本作は未だに活かし切れていない音楽的アイディアの宝庫だと思う。正統派メタルとファンキーなグルーヴに、虹のような橋をかけた奇跡の一枚。
OUTRAGE
Life Until Deaf (1995)
国産スラッシュ・メタル最大の成功者、OUTRAGEの6th。4th『The Final Day』(1991)、橋本直樹復帰後1作目の『Outrage』(2009)とあわせて、最高傑作の1枚だと思う。ただのスラッシュ・メタルに止まらない、同時代のグルーヴィなヘヴィネスを取り入れた作風は実に個性的。橋本が歌うメロディはとても力強いがパワー・メタル風には決してならず、パンキッシュな質感がある。(こうしたパンク性は、国内のあらゆるアンダーグラウンド・バンドと通底する日本のヘヴィ系バンド特有のものかもしれない) オーガニックとマシーナリーを往還する音作りもこのグルーヴにぴったりだし、アルバムのアタマとラストが有無を言わさぬ名スピード・チューンであることは、本作最大の強みでもある。ちなみに、パンキッシュな要素を高めた次作『Who We Are』(1997)でわたしは彼らに出会った。そのためそちらをあげることも考えたが(実際、素晴らしいアルバムだ)、後追いで聴いた本作の衝撃を採った。なお、トリオ時代の『Cause For Pause』(2004)はデザート・ロックの名盤であることも付記しておく。
PARADISE LOST
Draconian Times (1995)
ゴシック・メタルの始祖、英国のPARADISE LOSTの5th。ゴシカルな暗黒性と耽美性にメタルの攻撃性を接合しようとする彼らの試みは、本作において比類なき完成を迎えた。絶望的なまでに陰鬱なこの異形の美は、ここへ来て聖性すら帯びた徒花となったのである。ゴシック・メタル史上最高の「聖盤」と言えるだろう。このグロテスクな美に満ちた作品世界を見事に表現したアートワーク、ブックレットともに、この聖性に貢献しているのが素晴らしい。トータルとしてのアルバムの在り様は、こうでなければならない。グレッグ・マッキントッシュ(当時は「グレゴア」だった)の奏でるメロディの悲壮感と情熱、その煽情力は他に類を見ない。とくに、"Yearn For Change"のギターはいつ聴いても震える。もっと評価されるべきギタリストだ。以後はニューウェイヴ方面へと暗黒と耽美の探究を進めたが(それはそれでわるくなかったと思う)、またメタルのフィールドに戻ってのセルフタイトル作以降もよい。ただ、メタル市場を意識しすぎているのか、音が硬すぎるきらいがある。むしろ、本作のようにブリティッシュ・ハードロック的な質感にこそ活路があると思う。もっとも、それはわたしの好みでしかないのかもしれないが。
THUNDER
Behind Closed Doors (1995)
ブリティッシュ・ハードロック・バンド、THUNDERの3rd。ふつうに選べば1st『Backstreet Symphony』(1990)だし、やや冗長だけどいい曲ばかりな2nd『Laughing on Judgement Day』(1992)、叙情的な5th『Giving The Game Away』(1999)、再結成後の7th『The Magnificent Seventh』(2005)と8th『Robert Johnson's Tombstone』(2006)も大好きなのだけど、初めて彼らに触れたこちらにした。彼らの作品群のなかではもっともシリアスで重々しいテーマを扱った曲が多く、そのため本人たちはあまり気に入っていないらしい。それでも、その深刻さ故にダニー・ボウズの歌が殊のほか胸に響く。とくに、"It Happened In This Town"は絶唱である。もちろん、明るくキャッチーな曲もたくさんあって、"River Of Pain"はバンドを代表する名曲。わたしは本作を聴くことで、「フックのあるメロディ」とはどうゆうものなのか、理解したのだった。本作をきっかけに、メロコアやジャーマン・メタルに数多く見受けられた、ただスピーディーに流れていくだけのメロディに見切りをつけ、より曲作りのしっかりしたバンドを探すことになる。
HELLOWEEN
The Time Of The Oath (1996)
ドイツのカボチャ集団、HELLOWEENの7th。アンディ・デリス加入後2作目。BURRN!でインタビューを読んで期待を膨らましつづけ、その期待を上回ったアルバムに狂喜乱舞したのは、本作が初めてだった。上記THUNDERの3rdと同時期、高校受験が終わった頃のこと。それゆえ思い入れも深い。冷静に考えれば、アンディ加入後の最高傑作は昨年の最新作『Straight Out Of Hell』だろう。ただ、いつからかアンディは「メタル市場に合わせた」曲作りや歌唱にフォーカスするようになっていったと思う。(それで成功するほど、彼の音楽的才能は優れているということなのだが) 彼の持ち味はむしろ、ハードロック的なメロディセンスとマイルドな歌い回しにあるとわたしは思っていて(彼が在籍していた頃のPINK CREAM 69の長所が、まさにそれだった)、だからこそ本作がもっとも耳に馴染んでいる。独産南瓜ならではのファニーなセンスも、わたしは好きだった。ヴァイキーの曲作り、マーカスの超個性的なベースも素晴らしい。メロディック・パワー・メタルのなかでも、とくにメロディアス・ハード寄りの名盤と言える作品なのかもしれない。
DREAM THEATER
Falling Into Infinity (1997)
ボストン発、プログレ・メタルの祖、DREAM THEATERの4th。わざわざ断るまでもなく、代表作は2nd『Images And Words』(1992)と5th『Metropolis Pt. 2』(1999)で間違いない。実験的な6thも、ダークな攻撃性に満ちた7thも大好きだ。それでも本作を取り上げたのは他でもない、このアルバムには「彼らがとり得た別の可能性」が見受けられるからだ。発表当時、地味な作風の本作は賛否が分かれた。華々しいテクニカルな演奏も控え目で、もっと感情表現や情景描写に重きをおいた、あたたかみのあるオーガニックな音作りもこれまでとは違っていた。わたしは「賛」だった。彼らはこれから、「超絶技巧を持ちあわせたPINK FLOYD」のようなバンドになっていくと思ったのだ。その期待は次作で一部開花したものの、以後はこうした「やわらかさ」はなりを潜め、8th、いや9th以降はプログレ・メタルの類型に囚われてしまった感がある。(それはそれで高い質を保っているところは流石だが) 言うなれば、本作は彼ら唯一の「ハードロック・アルバム」なのだ。これはメタルの硬さ・光沢ではなく、宝石の原石がもつそれだったのである。なお、"Just Let Me Breathe"は夢劇場屈指にして唯一の怪作ディスコ・チューンである。
THE WiLDHEARTS
The Best Of THE WiLDHEARTS (1997)
英国のお騒がせバンド、THE WiLDHEARTSの2枚組ベスト。ベスト盤を選ぶというズルしてでも、彼らは入れたかった。1st『Earth vs. The Wildheats』(1993)と迷ったけど(『p.h.u.q.』は①②に引っ掛かるから)、1枚でほぼすべての名曲を網羅でき、入手困難なレア音源も収録されていて、その上、ジンジャー本人の選曲で彼が楽曲解説までしているのだから、これしかないのだ。ポップでキャッチーな、メロディアスでパンキッシュなロックンロールなのに、メタリックなリフがヘンテコなリズムで飛び出してくるという、わけのわからなさが素晴らしい。ジンジャーが天衣無縫の天才ソングライターであるばかりか、優れたリフ・メイカーであることも強調しておこう。(このヘンテコさは、同時代に活躍したDIZZY MIZZ LIZZYのティム・クリステンセンも同様であると付記しておく) それにしても、なんとキュートで切ないメロディばかりを書くのだ、この男は。それでいて、ささくれた初期衝動を手放しはしない。この絶妙なバランス感覚は、この頃までの彼ら最大の特質だった。再結成後の作品も素晴らしいけど、この時代のマジックは薄れてしまった。(それでも、ライブではまだまだ「魔法」は健在だったことを寿ぎたい)
Devin Townsend
Infinity (1998)
カナダの鬼才、デヴィン・タウンゼンドの3rd。2nd『Ocean Machine: Biomech』(1997)と5th『Terria』(2001)の間で、悩みに悩んだ末にこれにした。デヴィンの内宇宙を覗きこんだら、真っ白い世界に様々なクリーチャーが…というアニメ的な印象を最初は受けたものだったが、実際はそうしたポップ感もある一方で、異様な深度とスケール感も備えており、とても一筋縄ではいかない。(もっとも、いつもそうなのだけど) 通常の「シンフォニック」とは一線を画する、多層的な声とギターの壁が凄い。音の構造物というか、ひとつの世界を作り上げてしまうような、偏執狂的な作り込みようである。また、ジーン・ホグランの軽快なドラミングが楽しめる"Bad Devil"のカートゥーン感もまたデヴィンらしい。といっても、本作はTHE WiLDHEARTSのジンジャーと共作したポップな"Christeen"に尽きる。デヴィンの作品に外れはないから、手当たりしだいに聴いてみればいい。何者にも似ていない、彼だけの世界がそこにある。もう再結成することはないらしい、STRAPPING YOUNG LADの2nd『City』(1997)も必聴盤。ちなみに、嬉しいときは『Ocean Machine』を、哀しいときは『Terria』をよく聴く。(本作はその中間か) 薄っぺらで表面的な「癒し」ではない、もっと本源的な癒しが彼の音楽にはある。もっとも敬愛する音楽家のひとりだ。
A.C.T
Imaginary Friends (2001)
スウェーデンのプログレ・バンド、A.C.Tの2nd。プログレと言ってもかなりコンパクトな作風で、メロディアス・ハードとしても聴ける間口の広さがある。知的で繊細な曲作り、アレンジの緻密さは驚異的なレベルと言っていいだろう。まるで冗談かパロディのように挿入されるわずかなパッセージに、彼らの非常に高度な演奏力とユーモアのセンスが垣間見える。「かわいらしい」とさえ形容可能な可憐なメロディがまた絶妙で、おもちゃ屋で興奮するこどもの姿を思い浮かべてしまうほどのイノセンスに満ちている。その一方で、そうした無垢を抱えたがゆえに直面せざるを得ない困難といった現実的なテーマをも扱っていて、世界文学級のモダン・ファンタジーといった印象も強い。QUEEN、GENESIS、IT BITESの眷属と言ったら、少しはその作風が伝わるだろうか。本作はとっかかりとして聴くに最適なため選んだが、どの作品も傑作である。彼らのエッセンスが詰まった1st『Today's Report』(1999)、コンセプト作の3rd『Last Epic』(2003)と5th『Circus Pandemonium』(2014)、そして、あまりの切なさに胸が苦しくなる4th『Silence』(2006)(これにしようと思ったけど、とくにラストの組曲が本当に切なくて仕方ないので、見送った)といった具合に。来日公演を願ってやまない。
HARDCORE SUPERSTAR
Thank You (For Letting Us Be Ourselves) (2001)
スウェーデンのロックンロール・バンド、HARDCORE SUPERSTARの2nd。衝撃的なデビュー作『Bad Sneakers And Pina Colada』(2000)、ライトでポップな3rd『No Regrets』(2003)、80年代グラム・メタルを見事に現代仕様で甦らせたセルフタイトル作(2005)と、いずれももの凄く聴き込んだアルバムだ。一時期、間違いなくいちばん好きなバンドだった。ただ、メイン・ソングライターのシルヴァーが脱退してからは、やや類型的な音楽性に固定されてしまった気がする。彼らの持ち味は、「曲さえよければ何でもいい」という柔軟で軽やかなセンスにあったと信じて疑わないわたしにとって、もっとも散漫で曲調にバラつきのある本作は、彼らの才能を如実に示す見本市に思えてならないのだ。軽いロックンロールも、典型的なハードロックも、バラードも、ポップな曲もすべて、哀愁のメロディによってコーティングされている。その悲哀の度合いは、確実に本作が突出している。それ故に、このヴァラエティと繊細なメロディセンスが、類型的なハードロックに埋もれてしまったかのようで残念だ。(ただ、虚心に聴けば、後任ギタリストのヴィック・ジーノ加入後の作品も素晴らしいのだけど)
SNAKE HIP SHAKES (ZIGGY)
Virago (2001)
「大人の事情で」ZIGGYが名乗れなかった時期(2000年~2002年夏)、彼らはSNAKE HIP SHAKESとして活動した。これはその2nd。彼らがもっとも一丸となって活動していたのは、まさにこのSHS時代ではなかったか。それまでの幅広い音楽性を一度リセットし、メロディアスなハードロックに特化したこの時期のSHSは、とにかく楽曲に勢いと生命力が漲っていた。森重樹一が歌う「森重節」も絶好調で、ヘヴィにガナリたてるような楽曲にあっても、キャッチーなメロディの魅力が失われることは決してなかった。「まさにZIGGY」な1st(2000)、完成度の高い3rd『Never Say Die』(2001)ともに捨て難いが、もっとも高揚した勢いに溢れる本作を採った。もちろん、ZIGGYに戻ってからの作品も素晴らしい。というか、わが家にある「森重樹一が歌っている音源」は30枚以上に上り、そのすべてがこの30年のものなのだ。とうてい選べるわけがない。ベスト10すら難しい。前回ブログにソロを回してもなお、迷いに迷った。が、この時代を忘れてはなるまいとSHSに。森重が歌う作品では、The DUST 'N' BÖNEZの2nd『Rock'n'Roll Circus』(2006)もメロディック・ヘヴィ・ロックンロールの名盤。ZIGGYは…キリがないからやめておこう。
NOCTURNAL RITES
Shadowland (2002)
スウェーデンのメロディック・パワーメタル・バンド、NOCTURNAL RITESの5th。文句なしにダサいジャケ、なんのヒネリもない紋切型の歌詞、想像力を欠いた曲名のセンスなどは、いくらでもツッコミを入れることができるほどにB級である。しかし、とにかくメロディがいいのだ。それを、少しハスキーな声でジョニー・リンドクヴィストが歌うと、この上なく情熱的なものとなる。以降は質も安定していてどれもいいのだけど、本作の登場には実に驚かされた。前ヴォーカリスト在籍時の3rd『The Sacred Talisman』(1999)を愛聴してはいたけど、もっとマイナー調の、いわゆる「クサメロ」を聴かせるバンドだった。(それはそれでよかったけど) それがもっと垢ぬけて、より普遍的な正統派メタルに接近したのだ。ヴォーカルの声質もあって、部分的にはハードロックっぽくも聴こえるところが大好きだ。また、本作を聴いていた当時の幸福な記憶と不可分な作品でもある。今回の30枚では、いちばん個人的な選出かもしれない。もう長い間、音沙汰がなくて気がかりである…。
SLIPKNOT
Vol. 3: The Subliminal Verses (2004)
アイオワ発、猟奇的9人組重音楽団SLIPKNOTの3rd。「NIRVANA meets SLAYER」なデビュー作(1999)も、ブラック・メタル成分が増したブルータル極まりない2nd『Iowa』(2001)も、途轍もなく驚かされる作品だった。しかし、本作はその到達された深みにおいて感動的ですらあった。前作が、躁状態の嗜虐性を外に向けて解き放った作品だとすれば、本作は逆に、鬱状態の自傷性を内に向けて炸裂させた作品だと言えるだろう。加えて、メロディの充実度やアレンジの多様性が飛躍的に向上した。ネガティヴでヘヴィな感情表現の、完成された姿がここにある。しかも、大衆性を留めたままで。それまで、新世代Nu Metalの旗手程度に思っていたのが、本作を聴いたことで認識をあらためることとなった。これはまさに「芸術」ではないかと息をのみ、"Before I Forget"の中盤、「あの」メロディが登場したときは全身総毛立つほど感動した。構成、トータリティも申し分ない。本作が抱えた「痛み」は、全編を覆うメロディの叙情性と、暴力的な攻撃性の狭間でどくどくと脈を打っている。浄化作用のある劇物とでも言おうか、癒しとは違った、逆説的な「救い」のある一枚だ。これもまた「祈り」に似た「なにか」なのかもしれない。(それだけに、次作は肩すかし感があった…。新作も心配だ…)
CATHEDRAL
The Garden Of Unearthly Delights (2005)
英国のドゥーム・メタル中興の祖、CATHEDRALの8th。ハードコア好きのアナーキーな政治少年がブリティッシュ・ロックの深い森へと分け入り、出てきたら超マニアックなドゥーム魔人になっていた、というのがヴォーカリストのリー・ドリアンの略歴だが(?)、嫌がらせのような超スローの牛歩っぷりが怖ろしい1stはともかく、基本的にはキャッチーなハードロックに怪しいおっさんのヘッタクソな歌声がのる、というのが彼らのスタイルである。リフの質の高さは特筆すべき水準であるし、英国アンダーグラウンド・シーンをプログレからハードロック、NWOBHMからパンク/ハードコアまで総覧した上で吸収し吐き出す手腕も相当なものだ。(ただし、消化しきれず散漫な作品となってしまったものも、いくつかあるのだけど) 本作は2nd『The Ethereal Mirror』(1993)、3rd『The Carnival Bizarre』(1995)と同系統の、コンパクトな楽曲が並んだキャッチーな作品。それでも、リフの音がハードコア的な刺々しさを宿していたり、ラストに27分のプログレッシヴな大曲を収めたりと相変わらずやってることは複雑にして豊饒だ。2枚組の次作『The Guessing Game』(2010)と迷ったが、こちらの方が聴きやすいだろう。日本最終公演は、実に素晴らしいものだった。もう観れないのが寂しい。
SENTENCED
The Funeral Album (2005)
フィンランドのノーザン・メランコリック・メタル・バンド、SENTENCEDの最終作。タイトル通り、自らを葬るアルバムだ。しかし、それにしてはあまりにもエナジェティックな葬式である。幕開けのかっこよさはメタル史上に残るレベルだし、メロディの力強さも過去最高。ヴィレ・レイヒアラのダーティな声が、楽曲の荒々しさと悲哀をさらに高めている。雪片が風に舞うかの如き繊細なギター・メロディやピアノによるアレンジが、ただひたすらに哀しく美しい。初期の叙情デスのスタイルも素晴らしいのだけど、よくぞこれほどまでの完成度にまで達したものだと感嘆した。それも、他に類を見ない個性において、である。故ミーカ・テンクラの天才があってのことではあるが、バンドのイメージ創出も含めて稀有の存在だった。ついに来日公演叶わなかったことが残念でならない。地元での最終公演を収めたDVDを見ればわかる通り、本当にバンドの「死」を思わせるリアリティが、彼らにはあった。短いアコースティックの静謐なインストで緊張感を高めた後、最終曲につづく演出もこころにくい。そのラストの"The End Of The Road"は、劇的な構成、天から降り注ぐかの如きコーラス、終盤の強烈無比なギターソロ、躍動感あるアンサンブルと、すべてにおいて完璧な名曲。聴くたびに泣く。前作『The Cold White Light』(2002)も名盤。
ARCH ENEMY
Rise Of The Tyrant (2007)
マイケル・アモット率いるスウェーデンのメロディック・デス・メタル・バンド、ARCH ENEMYの7th。アンジェラ・ゴソウ在籍時の最高傑作が本作だ。リフ、ソロ、ヴォーカル・ライン、そのどれをとっても申し分ない出来栄えで、とくにギター・メロディの充実度は全作品中屈指ではないのか。初期の獰猛な荒々しさや、よりシンプルであるがゆえの直接性といったものは、もう認められないかもしれない。それでも、このスタイルにおいて頂点を極めたと言えるほどの貫録が、言うなれば王者の気品のようなものが、ここにはある。それを「洗練」と言っていいのかもしれないが、そうした音楽的洗練に先立つものを、つまりは、先頭を切って戦いに臨む者のみが示しうる「気高さ」を、わたしは本作に感じるのだ。この「気高さ」を、前作収録の超名曲"Nemesis"の世界がアルバムサイズにまで発展したものとして、わたしは受け取った。だからこそ、「LOUD PARK 07」で来日した彼らが見せてくれたステージは、別格の感動をもたらした。すべてが完璧だった。まさに王者の貫録を身にまとっていたのだ。ところで、これは余談だが本作のいくつかのソロは、わたしには「金色」に「見える」。音を聴いてはっきりと色が見えることはあまりないので、ここに記しておこう。
DEF LEPPARD
Songs From The Sparkle Lounge (2008)
言わずと知れた英国の牛、ではなくて豹、DEF LEPPARDの9th。当然のように4th『Hysteria』が最高傑作なのだが、他のアルバムもすべて素晴らしい。(わたしは問題作の『Slang』と『X』すら好きである) 5th『Adrenalize』でも7th『Euphoria』でもよかったのだけど、実のところ全作品でいちばん好きなのが本作。なんといってもアルバムを40分以内に収めたのが素晴らしい。歴代のLEPSのアルバムはたいてい60分前後あったので、これは新鮮だった。楽曲も粒ぞろいで、とくに本作は70年代グラム・ロックへの憧憬が色濃く出ているのが特長だ。とは言え、ストレートに往時のアプローチを採用するのではなく、彼らなりの消化を経たものなのでレイドバックした感じは一切ない。むしろ、溌剌とした若々しさが全編を覆っている。3rdから5thに顕著だった巨大なアリーナ・ロック感は後退したものの、すぐそこで演奏をしているような等身大の自然さが、彼ららしくていい。同期のIRON MAIDENと違って「偉大なバンド」とは思われないし言われないバンドだが、30年以上の長きにわたって素晴らしいバンドでありつづけているのだから、偉大である。2011年のライブも素晴らしいものだった。早く新作を出して戻ってきてほしいものだ。
IT BITES
The Tall Ships (2008)
ジョン・ミッチェル(ARENA他)が新たに加入して再結成された英国のプログレ・バンド、IT BITESの4th。フランシス・ダナリー在籍時の初期3作もすべて傑作なのだけど、本作との出会いは文字通り「救い」だったため、こちらを選ぶよりほかない。プログレとは言っても難解なところは一切なく(音楽的には相当に複雑なことをやってのけているのだけど)、キャッチーでポップでコンパクトな楽曲が並ぶところは初期と変わりない。ただ、初期の音楽性が英国ニューウェイヴ勢と通底するものを持っていたのに対し、本作はより成熟したメロディアス・ハードへと接近しているのが違いと言える。むしろ、彼らにとってプログレは隠し味なのだ。初期の、神童たちが目を見張るような遊びを繰り広げているかの如きイノセントな世界も唯一無二だったが、本作が提示する、高い知性と柔軟な感性に裏打ちされた詩情豊かな世界も、比類なき美しさを放っている。その世界には、遠い追憶や淡い郷愁をかきたてられ、しばし放心してしまうような「透明な光」が横溢している。ただ美しいだけではないこの深みを、年齢的な習熟に帰していいものか迷うところだ。というのは、あらゆる細部にわたって瑞々しさがいきわたっているからだ。音楽ファンはもとより、欧州の映画や世界文学を愛好するひとにも聴いてもらいたい。なお、ボーナス・トラックも素晴らしい出来なので、日本盤をお薦めする。
AMORPHIS
Skyforger (2009)
フィンランドのメランコリック・メタル・バンド、AMORPHISの9th。初期の叙情デス時代から中期の模索を経て、新ヴォーカリストのトミ・ヨーツセン加入によって彼らの音楽性は完成された。これはトミ加入後3作目。フィンランドの民俗叙事詩『カレワラ』の神話世界を材に採りつづけている彼らだが、今回は「空を鋳造した」鍛冶屋のイルマリネンという工人的神格を巡る物語が展開される。美しくたおやかなメロディ、細部にまで行きとどいた繊細優美なアレンジ、激烈なヘヴィ・パートを演出するグロウルとリフ、そして、この世界をかたどる精妙な歌詞と、すべてが極めて高い完成度を誇っている。実のところ、トミ加入後の5作はすべて傑作なので、どれを選んでもかまわないのだが、本作に殊のほか愛着があるのは、当時の記憶によるところが大きいのかもしれない。そうした個人的な事情を差っ引いて考えるとしたら、やはりこの「空」というテーマが喚起する清々しさや開放感と、収録曲の感触との間に重なるところが多いからだろう。とくに、名曲"Silver Bride"の美しさはまるで晴れ渡った空のようではないか。本作の次にあげるとしたら、前作『Silent Waters』(2007)の深い憂いか。最新作は音作りがもう少しメタルよりになったが、彼らにはもっとハードロックよりのオーガニックなサウンドが似合うと思っている。
DEAD END
Metamorphosis (2009)
日本ロック史が抱えた謎にして伝説、元祖ヴィジュアル系の一角でもあるDEAD ENDの5th。1990年に活動停止してから、実に19年ぶりの「再臨」である。荒々しいメタルの1st『Dead End』(1986)、暴虐性と耽美性と同居させた2nd『Ghost Of Romance』(1987)、ニューウェイヴにも通じる雰囲気を持った洗練と暗黒の3rd『shámbara』(1988)、明るくポップな音像にシフトした洗練と清浄の4th『Zero』(1989)と、初期は毎年キャラクターの異なる傑作を発表していたのだから恐ろしい。音楽的アイディアはもちろんのこと、メンバーの技量もセンスも抜きん出ていたが、そのためHM/HRシーンからの理解は薄かったようだ。それでも、彼らの音楽は基本的にメタルである。(『Zero』だけはジャンル不肖のライトなメロディック・ロックだが、それにしたってハードロックに由来する音楽性と言える) Morrieはその歌唱法をどんどん発展させてきたが、再臨後の本作以降はディープで妖艶なヴォーカルを聴かせている。月明かりのミステリアスな世界にエロティックな血飛沫が舞う、美しくも激しい作品だ。次作も多彩な作風で素晴らしいのだが、ドラムのMinato(湊雅史)の不参加は痛かった。本作において暴れまわる彼のドラムは間違いなく彼らに不可欠の要素なのだと思った次第。なお、3rdの「こどもたち」がLUNA SEA、4thの「こどもたち」がL'Arc~en~Cielだと思っている。あと、ギタリストのYouについてはここで書いている。
PAIN OF SALVATION
Road Salt One & Two (2010-2011)
スウェーデンのプログレ・メタル・バンド、鬼才ダニエル・ギルデンロウ率いるPAIN OF SALVATIONの7thと8th。かなりずるい選出だが、これは2枚組1作品として扱いたい。残念ながらB!誌のインタビューが2作ともなかったため、本作のコンセプトをダニエルの口から聞くことはできなかったが、両作を聴きながら歌詞や海外のネット・インタビューを読んだりブックレットの奇妙な写真を眺めたりするにつれ、ますます分からなくなった。毎回、難解なコンセプトをさらに難解な歌詞で表現するダニエルであるが、本作もまた様々な解釈が可能な「隙間」が多い。(どうやら、群像劇となっているもよう) それはさておき、その音楽性はかつてのようなDREAM THEATERに通じるプログレ・メタルからは遠く離れ、70年代のハードロックのようなシンプルでヴィンテージ感のある音像・曲調となっているのに驚かされる。アレンジもかなり凝っていて、ゴスペルやR&B、民謡からジャズにいたるまで、幅広く音楽言語を狩猟している。それでいてアタマでっかちなパッチワークにならないのは、ダニエルのメロディ・センスと豊かな感情表現の賜物であるし、また彼を支えるメンバーとのアンサンブルがとてもナチュラルで、息苦しさを感じさせないことによるだろう。(残念ながら、ギタリストとキーボーディストはすでに脱退している) なお、前篇が「山」や「森」、後篇が「海」や「岸辺」といったイメージ。実は本作を聴いて、上記DREAM THEATERの「あり得たかもしれない可能性」とはこれだったのではないか、と思った。ただ、POSにはPINK FLOYD的なものを感じないのが、われながら面白い。POSにはやわらかな「優しさ」よりも、北欧的な峻厳さが勝るということだろうか。いましばらく考えてみたいところだ。真の意味における「プログレッシヴ」なバンドである。
THOUSAND EYES
Bloody Empire (2013)
国産メロディック・デス・メタル・バンド、THOUSAND EYESのデビュー作。千眼についてはすでに詳述しているから、内容についてはそちらを参照してもらいたい。掻い摘んで言えば、海外の同系統のバンドと並べても遜色ないどころかこちらが上であり、世界でもトップクラスの完成度を誇っているということ、この音楽性は模倣ではなく、エモーショナルな叙情性とブルータルな攻撃性をメタルとして表現しようとした結果であること、この2点が要点である。わたしが本作を30枚に入れたのは、現在もっとも次作を期待しているメタル・バンドだからだ。そこまで期待するに至ったのは、そのライブが実に素晴らしかったからだ。残念ながら年内の活動はなさそうだが、来年は新作とともに大暴れしてくれるだろうし、してもらわなければ困る。本作を上回る傑作の到来と、それに伴うライブを心待ちにしている。
HEAD PHONES PRESIDENT
Disillusion (2014)
国産ヘヴィ・ロックの異端児、HEAD PHONES PRESIDENTの4th。アルバムとしては4枚目だが、間に3枚のミニアルバムと1枚のセルフカバー作があるため、個人的には8作目という感が強い。実は、直前まで"Rainy Stars"が収録されているという理由だけで、前作『Stand In The World』にしようと思っていた。(単に選びきれなかっただけであるが) ただ、ライブで本作収録曲を演奏するHPPの悪戦苦闘ぶり(わたしにはそう見えた)を観たら、いかに本作が大変な作品であるのかを思い知らされ、あらためてこちらを採った次第。4人編成となった前作の延長線上にある、メロディアスだがグルーヴを失わない、メタリックなヘヴィ・ロックという個性的な音楽性をさらにステップアップさせている。彼らの美点が余すとこなく出ている上に、新機軸を打ち出しているのが素晴らしい。(アマゾンのレビューにだいたいのところは書いておいた) HPPについては、これから大部にわたる連作ブログを「HPP私論」として書き連ねていくつもりなので、分析や解説はそちらに譲ろう。全作全曲レビューを含む、歌詞、ライブ、言説、ANZA論、「闇」の在りかなどについて、納得がいくまで書くつもりだ。たぶん、10回~15回となるだろう。それを書き終えたら、わたしとHPPの関係は一段落するはずである。
総評
80年代2枚、90年代13枚、00年代12枚、10年代3枚。
日本5枚、イギリス6枚、アメリカ6枚、カナダ2枚、ドイツ3枚、スウェーデン6枚、フィンランド2枚。
中高生時代に聴いたもの11枚、学生時代7枚、その後12枚。
前回同様、バランスに気をつかったわけではないけど、自然と取れていたのが不思議です。
80年代が極端に少ないのはもちろん、いくつかのルールを課したからですね。いちばん多い90年代は、当時全盛を極めていたアメリカのヘヴィ・ロック勢がまったく入りませんでした。アレもコレも大好きなのだけど、わたしのより深いところにまでは達していなかったのかもしれません。
全般的に、わたしには「そこでしか聴けないもの」を愛する傾向が強いようです。また、高いミュージシャンシップや、知性やユーモアを求める傾向も。音楽それ自体の「かっこよさ」だけでなく、そこからはみだすような過剰を、たとえば幻視や詩情や情熱といったようなものを、求めてもいるようです。ただ、基本線は「いいメロディ」にあるし、前回の非メタル編に顕著な「心地よさ」を志向してもいます。それと、「可能性の行方」を気にする傾向もあるようですね。類型より個性とか。まあ、各自分析してわたしに教えてください。
少し残念なのは、一時期狂ったように聴いていたケオティック・ハードコア関連を入れられなかったこと。「これからも」聴くかというと、そうではないかもしれないと思って外したのですけど、CONVERGEやNEUROSIS、そして日本のHELLCHILD(わたしは彼らをデス・メタル・バンドだと思ってません)には本当に救われたのです。
もっとも、あげられなかったものはキリがないですね。
いつかまた、こうしたブログをテーマ別に書いてみたいものです。
蛇足かもしれないけど、最後に少しだけ。
B!誌と友人知人の「30年30枚」で、もっとも所有する作品が重なったベスト3が、
①増田さんと前田さんの23枚
②大野さんとDEATHさんの19枚
③tokuさんとKoutaさんとko1さんの16枚
でした。
ここに「持ってないけど聴いたことある作品」を足したベスト3が、
①増田さんと前田さんとDEATHさんの27枚
②大野さんの26枚
③Koutaさんとko1さんの22枚
でした。
お晩です(笑) 自らバッサリ❗( ̄^ ̄)と条件付きされたので実に『個』が浮かび上がった選出になってますね~~♪
返信削除嬉しいのはTalisman(笑)←私 大好きです! マルセルは天才です!
Queensryche まぁ~アレを外せば←ですね~~( ̄ー ̄)ウム
ありきたりなコメントしか出来ませんが
ハハハ!お疲れ様でした(笑)
武装さん、毎回コメントありがとうございますm(_ _)m
削除そう、バッサリとカットしないと、絶対に選びきれませんでした。
てゆうか、これでも「あー、アレがないソレがない」とブツブツ言ってる始末(笑)
おお、TALISMANお好きですか!マルセルは凄いですよね。
音だけでも十分個性的ですが、作曲能力が柔軟で素晴らしいセンスの持ち主です。
それだけに、彼の最期は本当に悲しいものでした…。
武装さんの30枚もお待ちしてます( 'Θ' )
30枚UPありがとうございます。
返信削除色々と条件を課しているところが
moonさんらしいというか。
聴きたいアルバムが増えました(笑)
しかし、30枚悩みます。
Oceanさん、コメントありがとうございます。
削除いや~、条件を課さないと選べなかったもので( 'Θ' )
でも、聴きたいアルバムが増えたというのは、とても嬉しいです。
30枚、悩まない方がムリですよね。
本当に狭き門と言うか、投げやりにならないと決められないという(笑)
俺もデヴィンはSYLにしようかこれにしようか最後まで悩みました。
返信削除AMORPHISもあったなー!
ARCH ENEMYについては、まさしくMoonちゃんのコメント通りだと思います。
俺は「Vultures」のギターソロが大好きで、彼らの(クリストファーなんだけど)音楽スタイルの真骨頂とすら思っています。
アニキ、コメントありがとうございますm(_ _)m
削除デヴィンは作品数も多いし、質も高いし、思い入れもあるので本当に難しかったです。
書きながら、「あー、やっぱ『Ocean Machine』かなー」とか思ったりしてました(笑)
AMORPHISのアレは、オールタイムベスト10に入るくらい好きなんです。
買いに行った日のことまで覚えてます。辛い時期だったので、救われた1枚です。
ARCH ENEMYは、わたしはコレがいちばんですね。
ヨハン時代も最新作もいいけど、デビューから11年、ここまで来たかと感動したものです。
30枚セレクト、お疲れ様です。
返信削除KYUSSが入るんですね。私もこれは外せない一枚です。
HAREM SCAREMは聴いてみます。
よく聴くジャンルではなくとも、誰かにこれほどまで愛されたアルバムには
きっと何かがある、感じられると思うので。
KAZさん、コメントありがとうございますm(_ _)m
削除何か1枚だけでも、ストーナー系のアルバムを入れたかったのですよね。
他にもSLEEP、CLUTCH、MONSTER MAGNET、COC、DOWN、FU MANCHU、NEBULA、ORANGE GOBLINと、候補は色々あったんですけど、あまり名盤特集で出てこないKYUSSにしました。この系統ではいちばん聴いたアルバムですし、中身も抜群ですからね。
HAREM SCAREMは、『Overload』(2005)で冷めてしまうまでは、いちばん好きなバンドでした。新潟にもツアーで来てくれたし…。昨年のライブも、再録盤収録の新曲もよかったから、またハーレム熱が再燃しております。とても情報量の多い作品なので、様々な聴き方ができると思いますよ。そう言っていただいて、とても嬉しいです。