2011-02-17

DEFTONES at Shibuya Club Quattro on 10th Feb & another one


   
先週のこの時間(現在19:20)は、DEFTONESをクアトロで観ていた。

そのわずか6日前に同会場で最愛のHEAD PHONES PRESIDENT(以下HPP)を観ていたため、
短い時を隔ててやってきた余韻に奇妙な感慨を抱きつつ、最前列から身を離して段差上からの観戦となった。


当日は開場時間の18時より10分は早く会場に着いたのだが、早くも多くのひとが開場を待っていた。
ほとんどのひとが20代後半~30代、だろうか。思いの外、女性が多い。

中に入るとすでにフロアはほとんど埋まっていて、会場の選択ミスを思わずにいられなかった。
他にブッキングできる場所がなかったらしいのだが、キャパ約800のクアトロはあまりに狭すぎた。
これはちょっと危ないな、と思って段上に。混雑したフロアに躊躇なく突っ込んでいく外国人多数。


日本以外では押しも押されぬ大物なので、ほぼ定刻通りに始まったことにうれしい驚きが。
これぞプロフェッショナルの仕事である。「律義」と評していたひともいたが、同感だ。

ドラマーのエイブ・カンニガムとヘルプ・ベーシストのセルジオ・ベガが登場。

ステージ奥は、サンプラー卓がその7割近くを占拠してしまっているため、
ドラムキットは上手のはじにちんまりとセッティングされていた。

エイブの実力を考えると「扱いおかしいだろ」なのだが、会場が間違っているというのが真相か。
マニラの会場の広さを考えると、東京でクアトロというのは「恥晒し」と思えなくもない)

インドの行者かヒッピー教団のグルみたいな風貌のステファン(g)が、大歓声を前にニコニコしている。
すると、その後ろに隠れるようにしていた男が中央に出てきた。もちろん、チノ・モレノ(vo)だ。

歓声はさらに大きくなり、フロアに流入するひとでさらに前方は混乱状態になっているなか、
1stからの"Birthmark"でライヴの幕は切って落とされ、会場全体が揺れ動いたかのような騒ぎに。

後の、「美しさ」を感じさせるヘヴィ・ロックではなく、
同郷のKORNと同じライヴ・ハウスに出入りしていたという「前史」を証明するが如き、
いかにも90年代と言いたくなる陰惨さとささくれた激情を撒き散らす曲だ。


さらに、アルバム通り"Engine No.9"へとつづく。
ラップ部分に時代を感じたが、力強さと勢いでそんな記憶は捩じ伏せられた。説得力が違う。

そして、オーディエンスが素晴らしい。曲を熟知しているため、体がすぐに反応するのだ。
誰もが待ち侘びていた。それも、醜いまでに太ってしまったチノではなく、スリムになったチノを。

彼独特の、すっと直立不動になったり、手を前に伸ばしたり、いきなり暴れて体をくの字に折ったり、
というアクションの数々もキレがあって、何より「楽しそう」なのが伝わってきてこちらもうれしくなる。


2ndからの"Be Quick And Drive (Far Away)"に、
ほとんど「悲鳴」が起こったと言っていい状況に。(やっとフランク(smp)が出てくる)
DEFTONESが、その独自の美意識をヘヴィ・ロックにもたらした画期的な曲だ。
(チノがとてもとても細かったことを証明するPVで有名、と言うべきか?)


前々回のHPPライヴレポでも一部書いたように、
90年代のヘヴィ・ロックは基本的に80年代型メタルへの「反発」として始まった。
曲の規格化から逃れられる反面、パッと聴いた限りの「つかみ」は弱い、という特徴を挙げたが、
そのトップ・クラスのバンド勢がそうであったように、圧倒的なまでに肉感的なグルーヴは強烈で、
その心地よさとヴォーカルの気持ち悪さ(おもに「普通に歌わない」ことを指すとしよう)にハマると、
このジャンルの音楽的クオリティというもの、もしくは「ツボ」がわかるようになるだろう。

個人的には、DEFTONESのほかにKORNとTOOLと、そしてALICE IN CHAINSを挙げたい。
どのバンドも、グランジでもオルタナでもない、彼ら自身の音楽をやっている。


"My Own Summer (Shove It)""Lhabia""Around The Fur"と2ndの曲がつづく。
オーディエンスもまた、うれしくてたまらない、といった反応をつづけていた。
それもそうだろう、DEFTONESがその名を世界に知らしめたアルバムである。わたしもこれで彼らを知った。
そしてそのときには、上述したような理由でその良さがわからなかった。「聴き方」が間違っていた。

彼らの音楽は、その歌メロやリフを追って聴くのではなく、その全体像を感じながら聴かねばならない。
すべてが有機的に連関しているアンサンブルのしなやかさにこそ、この手の音楽の神髄がある。

玄人受け抜群のエイブ・カニンガムのドラミングは、予想以上に衝撃的だった。
ドラムを殴りつけるようにぶっ叩いているのだが、あのグルーヴの強力さといったらない。

チ・チェンの代役を務めるセルジオも、ステージ真横を向いたマイク・スタンド以外は納得の出来。
少し色の薄い黒人で髪を金髪にしていたので、ダグ・ピニック(KING'S X)を思い出した。小柄だったけど。

ソロは一切弾かずにリフ、リズム、コードに特化したギターを聴かせるステファンも、
動きの激しさはさすがに衰えてきたようだが、アルバム通りに完璧な音作りで文句なし。
(フランク?場所とっているわりには、「まあ、いるよな・・・」ぐらいの印象しかない。)


非常に素早いステージ転換で、本日はじめてチノがギターを持った。
エイブのカウントにつづいて3rdからの"Digital Bath"がゆったりと、しかし緊迫感をもって始まった。
ギターを弾きながらでも、「あの」ハイトーンを余裕で出して見せるチノ、やはり只者ではない。
(以後、バラード系?の曲でのみチノはギターを弾いていた。)

そのヴォーカルと、素晴らしいとしか言いようがないドラミングにうっとりしてしまう。
「普通の」キャッチーな曲を歌わせたらより一層チノの名声と評判は高まるに違いないのだが、
そうゆうことをしないで、「自分の方法」を貫いて歌いつづけるところにこそ信頼ができる。


"Knife Party"でオーディエンスとの掛け合いもしつつ、
これまで年代順に進行していた流れ通りに、4thから"Hexagram""Minerva""Bloody Cape"とつづく。

正直に言って、わたしはこの4thがあまり好きではなかった。聴くタイミングが悪かったかもしれない。
それでも、ライヴという場で聴く/観ると、その魅力の一端にやっと触れた気がした。今後は愛聴できそうだ。


ステファンのギターが7弦から8弦に変わり、ここで編年体が崩れて新作の登場と相成った。
引き摺るようなヘヴィなリフと、浮遊感漂うチノのヴォーカルのコントラストが美しい"Diamond Eyes"から、
初期のささくれた質感を思い起こさせつつ以後の方法論を挟み込む"Cmnd/Ctrl""Royal"で会場を沸かせ、
そして彼らの独壇場といっていい、ポストロック的な拡散美を放つバラード"Sextype"で感動させる。

実に巧妙で練られたセットリストだと感心することしきり。
硬軟両面を活かし、かつオーディエンスをムダに疲れさせず集中力を保持させた点で、完璧に機能していた。


ゆえに、感動したあとは大暴れである。
"Rocket Skates""You've Seen The Butcher"と、8弦ギターの威力が炸裂する。
とくに後者のリフは、それこそタイトル通り「肉屋」の大包丁を想起させるザリゾリした音が衝撃的で、
じっくりじっくりと、骨から肉を削いでいくかのような「厭な」感触が最高だった。音の魔術がここに。


近年の集大成的な"Beauty School"にまたしても感心させられたあと、ふたたび過去へ戻る。

5thから、不思議な明るさをその轟音のなかに見出さずにはいられない"Hole In The Earth"と、
どこか天に昇っていくイメージのある"Kimdracula"がつづき、4th同様5thも見直すことに。

チノが激太りしていたこともあるのだろうが、5thもまた個人的心象は芳しくなかったのだ。
ただ、今回の来日に合わせて予習がてら購入して聴き返したところ、その音像に改めて感心した。
5thからはこの2曲だけだったが、こうしてライヴでこそ楽曲の真価というものは問われるのだし、
またちゃんと聴き直そう、という反省を促されることにもなる。


もちろん、前回・前々回に書いたHPPも同様だが、ある一定のレベル以上のバンドでなければ、
そのような思いをオーディエンスに抱かせるのはほぼ不可能である。

彼らのライヴは「曲の再現」ではなく「曲で再現」することにウェイトが置かれている。
では、曲「で」再現する、とは何を意味するのか?何を再現するというのか?

それは、曲に込められた想い、記憶、感情であり、多くの場合、「痛み」だ。
ゆえに、その再現は精神的にハードルが高い。だからこそ、表現が熾烈になる。
そして、だからこそ、想いを共有するオーディエンスを見て笑顔になる。


そんなことを考えていたら、チノがギターを持って"Change (In The House Of Flies)"を始めた。
フェイヴァリットの3rdからの曲でひとしきり感動していると、一番好きな"Passenger"が。

フロアも段上も凄い盛り上がりで、みんな思いは同じなのだと実感。
オリジナルはゲスト参加のメイナード(TOOL)節がおもしろいくらい炸裂するナンバーだが、
もちろんチノは、力技であの節回しを自分のものにしていた。驚異的なヴォーカリストだ。

表現者としてのステージングもさることながら、とにかくあの豊かな声量と声の多彩さ、
それをアルバム通りどころかそれ以上のレベルでやすやすと披露するのだから恐れ入る。

百戦錬磨のベテランとして貫録たっぷりな一方で、こどもじみた動きや表情がまた、いかにも彼らしい。

ヘヴィ・ロックをやっているミュージシャンは、最終的にイノセントな印象が他に勝る。
その繊細さ、脆さ、傷つきやすさ、をその表現の根底に見てしまう。わたしの偏向だろうか。


素晴らしいパフォーマンスを披露したバンドは、ステファンを残してステージを去った。
残されたステファンはひとり、フィードバックやら何やらの残響音で即興を演出、
少ししてからメンバーがひとりずつあらわれ、アンコール(と言っていいのか?)に。


1stからの"Root"のリフが場内に響いたときの、あの暴動まがいの騒ぎをどうあらわしたものか。
とうのむかしにパンパンになっていたフロアに、ここぞとばかり駆け込む新規参入組のため、
前方フロアはもみくちゃどころか見ているだけで心配になってしまうほどの混沌とした状況に。
(あれ、怪我人出なかったのだろうか…。プロモーターはさぞ肝を冷やしたことだろう。)
前方の柱に寄りかかったチノの腹をぽんぽん叩いていた輩がいたのには笑ってしまった。


これまでの進行から察せられたように、アルバムの流れそのまま"7 Words"へ突入。
こうして、彼らにしてはストレートな初期の曲を体感していると、またこんな曲を書いてほしいと思ってしまう。
去年リリースの新作が「初期に戻った!」みたいな触れ込みだったけど、
実際は以後の独自路線の素晴らしさはさておいて、初期衝動は期待したほどではなかった。

成長しつづけるバンドに必ずつきものの、「ないものねだり」ではあるのだけど。

ライヴの場で、しかもこれほど素晴らしいパフォーマンスで、
初期の曲をやってくれただけでもありがたい。是非とも近いうちにまた来日してほしいものだ。


SETLIST
01. Birthmark
02. Engine No.9
03. Be Quick And Drive (Far Away)
04. My Own Summer (Shove It)
05. Lhabia
06. Around The Fur
07. Digital Bath
08. Knife Party
09. Hexagram
10. Minerva
11. Bloody Cape
12. Diamond Eyes
13. Cmnd/Ctrl
14. Royal
15. Sextype
16. Rocket Skates
17. You've Seen The Butcher
18. Beauty School
19. Hole In The Earth
20. Kimdracula
21. Change (In The House Of Flies)
22. Passenger
interlude
23. Root
24. 7 Words



ところで、この日はもうひとつライヴを観た。

DEFTONES及びそのスタッフがプロフェッショナル中のプロフェッショナルだったおかげで、
あんなにたくさんの曲をやっても110分程度で終了(MCをほとんどしなかったのも功を奏した)、
終わったときはまだ21時まえだったのだ。

実はこの日、渋谷では「フリージアとショコラlll」という女性ヴォーカルのイベントが行われていて、
そのうち「ロック部門」のO-Westに、HEAD PHONES PRESIDENTが出演していたのである。

キャリアとメンツから、出演はトリかトリ前と踏んでいたので急いでO-Westに向かった。
着くと21時を少し過ぎたあたり。いつもの顔ぶれがまだいるので、間に合ったと悟る。


ライヴレポは長いものをすでにあげているので、簡単に感想を述べるに止めておく。

・ライヴが二回続けてクアトロだったので、O-Westの天上の高さが気持ちよかった。
・というか、クアトロは構造上問題がありすぎるから、できるだけ避けてほしい。
・どんなイベントに出ても「浮く」のがHPPだが、久々に完膚なきまでの浮きっぷりで天晴れ。
・DEFTONESを観た直後でも引き込まれてしまうその世界観の強度にあらためて感嘆する。
(わたしが重度のファンであることを差っ引いてもこのことは言えるはずである)
・"Nowhere"で幕開けは久しぶりだけど、最高。イントロ、少しだけ変えた?
・新曲、これで観る/聴くの6回目だが、もう覚えた。少しずつ変わってる。完成が楽しみ。
・"Light to Die"は天井が高いとより映える。HPPに必要なのは「天井の高い会場」である。

などなど。

これでしばらくライヴの予定がないのが残念。
(マルセイユにまで行けば観れるのだが…。)


彼らもまた独自のヘヴィ・ロックを展開するバンドだ。
そしてそれ故に、メタル系の国内バンドとはまた一味違った苦戦を強いられている。
(女性ヴォーカル、ということもあるだろう。いや、他にもいろいろある。)

ジャンルも属性も関係なく、真摯に音楽に耳を傾け、虚心にライヴを観ること。
それさえできていれば、DEFTONESやHPPのように素晴らしいバンドが苦戦するはずもない。

逆に言うと、それができていないのが日本の現状だ。
リスナーも、ライターも、その他「ギョーカイ」関係者も。

わたしには、そんなバンドたちを細々と零細ブログで応援することしかできない。
それが歯痒くて仕方ないが、どうしようもないと呟くよりほかにないのであった。


HPP at O-West on 10th Feb

SETLIST
1. SE
2. Nowhere
3. Desecrate
4. Reality
5. (new song)
6. Light to Die
7. Sixoneight


  

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