2011-10-29

Lou Reed, a strange kind of musician

      

来週、とうとうLou Reed & METALLICAによる合作Lulu がリリースされる。
しかし、この新作を楽しみにしている者が、果たしてどれだけいるというのか?

すでに先行オンエアされている"The View"に戸惑ったひとは数多くいるだろうし、
全曲試聴可能となって聴いてみても、ピンとこないどころか退屈に思えただろう。


かく言うわたしがそうだ。嫌な予感が当たった、とも言える。
少なくとも、音楽として楽しめる要素はほとんどなく、
バックをつとめるMETALLICAのラフな演奏もデモのようだ。

生々しい迫力、と讃える(=誤魔化す)こともできそうなロウ(raw)な音作りは、
「作りっぱなし」「ほとんどデモ」と評されたSt.Anger (2003)を思い出させる。

実際、本作のレコーディングは「基本的に一発録り」であると同時に「即興演奏」だったらしい。
ルーはアンビエント的なBGMをメタリカにポンと渡して「なんでもやってくれ」とのたまったそうで、
渡された側はただひたすらセッションに興じてそれを録音しただけという、まさに「生」な作品だ。

ところどころ、ハッとさせられるリフやアンサンブルが現れはするけど、
それもこれも、たいていの箇所が退屈なため、そう思うだけなのである。
("Mistress Dread"はかろうじてエキサイティングな曲と言えそうだが…。)

極めて文学的なコンセプトであり、しかも2枚組という超大作でありながら、
彼独特の美しいメロディや、洗練されすぎない絶妙なアレンジは完全に姿を消し、
建設途中のビルディングに見られるような剥き出しのコンクリート壁を思わせるような、
何もない空っぽな殺伐とした空間に、ひたすら蛮音が轟々と響き渡っていくだけなのだ。

そんな音像のなか、全編にわたってひたすら「朗読」に終始するルー・リードの声がつづく。
彼はほとんど歌わない。むしろ、「歌っている」のはジェイムズ・ヘットフィールドの方だ。

いったい、ルー・リードはどうしてしまったのだろう?
なぜ、繊細なコンセプトを台無しにするかのような作品に仕立てあげたのか?
もしくは、この野蛮な音を意図したからこそ何らかの表現が可能になったのだろうか?


ボブ・ディランやレイ・デイヴィスらと並ぶロック史上最高の詩人のひとりであり、
文学修士号をたしか取得しているはずの、ロック界きっての「文人」でもある彼が、
この新作『ルル』の詩作に並々ならぬ労力を注ぎ込んだことは、想像に難くない。

だが、正直に言って、その詩作に触れるために本作を購入したいとは思わない。
それなら、まだ手に取っていない他の作品を聴きたいし、実際そうするだろう。


いま、わたしが恐れていることは、この作品でルー・リードという天才が誤解されることだ。

断言はしかねるが、『ルル』はMETALLICAもろとも散々にこき下ろされることになるかもしれない。
場合によってはMETALLICAに同情票が寄せられることもあるだろうが、その際は彼が標的になる。

もしくは、その(主にアメリカにおける)キャリア全体に対する評価に恐れをなして(腰が引けて)、
音楽自体に話が及ぶことを避けつつ、その外縁をなぞりながらの「評価」に終始するだろう。

しかし、なんでも垂れ流せるネット社会になって久しい昨今において、そんな評に意味はない。
多くのひとが、口々に「退屈」「理解できない」「ゴミ」「オワコン」と言いだすに違いない。


そう思ったからこそ、先に言っておきたいのだ。
ルー・リードは奇妙なミュージシャンなのだと。


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ルー・リードは奇妙なミュージシャンだ。


たいていの場合、ソロ活動をするミュージシャンは以下のパターンに分類される。

①活動領域をどんどん変えていく。違う音楽をすることで、逆説的に変化しない部分を見せる。
ex)デヴィッド・ボウイ「モッズ→グラム→ソウル→テクノ/ニューウェイヴ→ポップ→以下略」

②表現方法をどんどん開拓していく。新たな理論を創出したり取り込んだりし、吐き出していく。
ex)ブライアン・イーノ、デイヴィッド・バーン、デイヴィッド・シルヴィアン、などなど。

③曲自体の変化は大きくないが、装飾(アレンジ)の洗練/拡張や共同作業にその矛先を向ける。
ex)ポール・マッカートニー、ピーター・ゲイブリエル、スティング、ポール・ウェラー、など。
(スティング、ウェラーは①でもいいかもしれない。)

④自らのルーツに立ち返る。言い方を変えると「趣味の世界に引き籠る」とも言える。
ex)ブライアン・ウィルソン、ロバート・プラント、フィル・コリンズ、などなど。

⑤ひたすら己の妄想を先鋭化させていく。これは「自分の世界に引き籠る」と言えよう。
ex)ピート・タウンゼント、ロジャー・ウォーターズ、ケイト・ブッシュ、などなど。

⑥本当はいろいろやっているのに、なぜか「いつも同じ」と思われてしまうひとたち。
ex)ボブ・ディラン、トム・ウェイツ、エルトン・ジョン、ビリー・ジョエル、などなど。

ロックからポップス界に拡げると、まだまだこの分類はできるのだろうけど、
とりあえずこれくらいでやめにしておいて、ルー・リードに戻ることにしよう。


彼は上記の分類に該当しない。これは、当て嵌まらないように分類を作ったからではない。
(と言うか、書きながら適当にでっちあげたので、境界はかなり曖昧である。)

簡単に言うと、①から⑥に当て嵌まるミュージシャンは「大人の音楽」をやっている。
もしくは、長い年月をかけてそこに到達したり、わりに早い段階でそこに達している。
彼らを現役で聴いてきたリスナーも同様に年を取っているし、そこに抵抗はないだろう。


だが、ルー・リードは違う。彼は「大人の音楽」など一度もやったことがない。

では、ロック=初期衝動説に則ってロックを「こどもの音楽」と仮に呼ぶとしても、
彼の音楽はそうしたシンプルなものではなく、かといって複雑というわけでもない。

ゆえに「奇妙」なのだ。究極の「オルタナティヴ」とも言える。
彼は、音楽的な洗練や心地よさに興味などないのかもしれない。

そのため、彼の音楽は他では決して聴くことができない独自のものとなっている。

(これらの点において、共通点を見出せるのはニール・ヤングくらいしかいない。)


THE VELVET UNDERGROUND時代から数えて46年もの活動歴(!!)があり、
制作した作品はソロ時代のオリジナル・アルバムだけでも22作(『ルル』を含む)、
ヴェルヴェッツ時代や、ライブ盤、ベスト盤、企画盤、シングルにEPを入れると、
それはもう本当に膨大な量になる。本人もカウントしていないかもしれない。

というのも、彼はリリースに間をほとんど空けないからだ。
オリジナル・アルバムとライブ盤だけでカウントしても、最大で17thと18thの間の4年。
その次が14thと15thの間と、2008年のライブ盤と『ルル』の間の3年だけ。

あとはすべて、1年か2年以内にリリースしている。
繰り返すが、46年間もの長きにわたって、である。

考えられるだろうか?それほどの創造性と身体性を維持しつづける、ということが?


これだけでも並はずれた人物であることがわかるというものだが、その経歴も異様な点が多い。
これまた簡単に言うと、彼はときどき「わけのわからない作品」を平然と(?)作るのである。

いちばん有名なのが「レコード会社への当てつけ」説すらあるMetal Machine Music (1975)で、
これは全編フィードバック・ノイズで構成されている、というほとんど「聴く拷問」という一作である。

わたしは彼の全作のうち10枚ほども聴いていないので、まだファンとしては「浅い」のだけど、
たぶん『ルル』はこの「わけのわからない作品」の系に入ることになるだろう。


まったく、ひと騒がせで面倒くさいおっさんだ…と思わないでもないが、
その上、伴侶であらせられる方があのローリー・アンダーソンだというのだから、
もう本格的な論考などどこかへ打っ棄っておきたくなるというものだ。
(ローリー女史については『実験的ポップ・ミュージックの軌跡』を参照されたし。)

ここに、ニューヨークという特性、ユダヤ系アメリカ人という文脈、
「ビートニク」直撃世代としての文学性、アメリカにおける「詩」、
グラム・ロック時代と頽廃文学の関わり、ギタリストとしての特徴、
などなど、その因数の多さには困り果ててしまう。


キャリアが46年もあるのだからそれこそ「八ヶ岳」状態のディスコグラフィで、
どれから聴いたらいいのかわからないし、これ!と一枚を薦めるのも難しい。

彼の音楽はとてもユニークなのでわたしは大好きだけど、
どちらかというまでもなく「玄人向け」で、とっつきは悪い。

わたし自身、何度も歌詞を読みながら深みにはまっていったのだ。

だからといって、一聴して虜になってしまう曲も少なからずあるわけで、
やはり一筋縄ではいかない御仁なのだから…面倒くさいおっさんである。


それでも気になるというひとには、聴きやすいTransformer (1972)から入るのが無難か。
初期ならコンセプト・アルバムの傑作Berlin (1973)だろうが、あれはあまりに重い。
むしろ異色作のConey Island Baby (1976)を薦めるべきか。(ギターはボブ・キューリック!)
中期ではThe Blue Mask (1982)がクールで好きだし(ギターはロバート・クワイン!)、
もちろんNew York (1989)を最高傑作としてあげても、何の問題もないだろう。
近作ではEcstasy (2000)も聴きやすく、これは感動的ですらあるからお薦めだ。


ところで、『ルル』の国内盤は「メタリカ&ルー・リード」名義でリリースされると言う。

それを聞いたわたしは思わず「バカじゃねえの!?」と口に出してしまったのだが、
それもこれもルー・リードの日本における地位の低さに起因するのだから、仕方ない。


来年はとうとう70歳の大台にのってしまう御大、奇跡の来日公演は果たしてあるのだろうか。
あったとしても、『ルル』は一切やらんでいいのだが・・・。やっぱり、面倒なおっさんである。


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4 件のコメント:

  1. 中学生のころ(だったと思う)に某少女マンガにひょこっと出てきたことがキッカケで、聴きました。
    中学生にはわからない音楽でしたねぇ。
    未だにCDを日本盤で買って、歌詞を読まないとわかりませんが(笑)

    ルー・リードとメタリカって、私的には不思議な組み合わせだなぁと思ったのでした。

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  2. >kanaさん

    む、その少女マンガ気になりますね。いつか教えてください(笑)
    そういや、けっこう出てきそうだな、ルー・リード。頽廃から耽美へ一直線(笑)

    たしかに中学生じゃあわかりませんね。高校生でもムリか。
    わたし自身、この良さがわかったのは学生時代が終わりかけてた頃ですし。

    ルーとメタリカ、不思議どころかいまだに「???」ですよ(笑)
    まあ…ウマがあったんでしょうかね。よくわかんないけど。

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  3. 少女マンガは・・・楠本まきさんの【Kiss】でござる。
    一昔前のV系で流行った漫画家さんです。←失礼?
    この方、けっこう音楽知ってますよ♪
    噂では理想の男性がキュアーのVoだそうで・・・(笑)

    話を戻して。
    その中に、ほんの一瞬だけ名前が出てきます。
    で、どんな人だろうと聴いたみたワケです。

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  4. >kanaさん

    あ、『Kissxxx』って聞いたことあります!
    楠本さんて、すっごい細い線描くひとですよね、たしか。

    THE CUREか~ふむふむありがち(笑)
    痩せたり太ったりのロバート・スミスって、いまはどうなんだろ。
    最近のバンドは、初期作とかをライブでやってるらしいですよ。

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